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ガッコ見学
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「ホンマに、こんな時間でええの?」
「いいよ。夏は、この時間の方が過ごし易いもん」
「まあ、わしはええけど。問題あらへん?」
「そうだなぁ。あえて言うなら、夜中に学校見学なんてして捕まらないか、だね」
「それは……確かに問題やな」
苦笑のようなものを漏らしつつ彼が言い、僕は神妙に頷いた。
入りたいと思っている学校へ夜中に忍び込み、誰かに見つかれば絶対に入れなくなる気はするが。まあ、その時はその時だ。友人には楽観的と称されていた僕、これぐらいなら大丈夫だと考える。
「ほな、捕まらんうちにさっさと入るで」
楽しげに言う友に小さく頷いて、僕らは夜の学校へと侵入した。
開いている扉を探して中へと滑り込み、暗い廊下を歩き出す。
「自分、来年からここに通うんやなぁ。わしは来れんし、離れ離れ……寂しいのう」
「そうだね……ねえ、もう少し静かに歩けないの?」
「無茶いうなや。自分とは違うんよ」
一般的な教室を覗き込みながら、小さな声で言葉を交わす。
机がぐちゃりと並び、その隙間に荷物が置かれている。窓が閉まっているので、湿った生ぬるい空気がこもり、暑苦しい。
「よう考えれば、入学式から三年間……ずっと一緒におったもんなぁ、わし等」
そうだね、と答えながら掃除ロッカーを開ける。
教室よりも汚い箒が突っ込まれていた。
彼とは、中学の理科室で出会った。
天文学部という文字に引かれて入っていった理科室。既に卒業してしまった先輩と、彼が楽しげに談笑していた。それを見て、この部に入ることを決めたのだ。
人と話すのが苦手だった僕も、ここならばやっていけると思えたから。
「……あのさぁ」
「んー、なんや?」
静かな音楽室を覗き込みながら、ホンマ誰もおらへんな、幽霊ぐらいおったらええのに、と呟く彼に苦笑して、僕、と言葉を続ける。
こちらを振り向いた彼に、少し笑って見せた。
「まだ、中学に居たいな」
「あほ、何言うとんねん」
「だって、こっち来たら君と会えないし」
「……自分、素でそういうこと……」
白い右手で自らの顔を隠すようにして、ホンマあほやなぁ、と呟き僕の目をじっと見た。
「ええか、遠く行くんと違うんや。すぐ会える。それに、勉強したい言うたの自分やろ?」
「そうだけど」
俯いて呟くように答えると、彼は少し首を傾げた。
かたり、と小さな音が廊下に響く。
ぐぎょっ!? と彼が変な声を上げて、きょろきょろと辺りを見回した。
「こ、ここん幽霊かっ?」
「……ここ、そんな話聞かないよ」
「ホンマ? ざ、残念やなぁ、自分の怖がるとこでも見て笑うたろう思ったんに」
「ビビってたの、君じゃないか」
笑いながら答え、再び廊下を進みだす。
止めてくれればいいのに、と思った。
彼がこの学校へ来れないのは分かるけど、それでも、僕の為にここへ来る努力でもしてくれればいいのに、と考える。
今まで全く怖くなかった暗闇が、少しだけ、寂しいものに見えた。
ゆっくりと歩いて校庭へ出て、僕は小さく息を吐いた。
襟元を少し開き、空気を入れる。
「暑かった……」
「そう? ワシは別に」
「あー、アイス食べたい」
「人の話聞いてへんな」
突っ込んで、彼はからからと笑った。
その楽しげな笑いに釣られて、僕も少しだけ笑う。
彼と居るのは楽しい。
決して明るいとはいえない僕の性格だけれども、彼と一緒に居ると、笑うことが増える。
だから、ずっと友人で居たいと思う。
ふと、笑いが途切れて、彼が真面目な顔をして僕を見た。
僕も、背の高い彼を見上げる。
「なあ、この学校入ったらな」
「うん」
「普通の友人、作れな?」
「……」
「仲間、おらへんかったしな」
幽霊おらん学校もあるんやな、と続けて、彼は再びからからと笑った。
顎の骨を何度も噛み合わせるようにして、彼はからからと楽しげに笑う。
僕は、この笑い方が好きだ。
だから、僕も微笑みを浮かべた。
そして、うん、と頷き。
「それじゃ」
「おう、またな」
いつもと同じ挨拶を交わして、白い骸骨だけの彼と、その場で別れた。
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