手紙  

「あの、今日は」
咲のおかーさんが出てきて、少し驚いた顔をした。
でも、すぐに中に通してくれた。
ぐっと、咲の写真を持つ手に力をこめる。
お茶が出されて、とりあえず、お礼を言う。
「えっと、これ……」
そういって、咲が移っている写真を彼女に渡した。
彼女の目が、大きく開かれる。
「おれが撮ったんです。渡しといた方がいいかと思って……」
そう言ってから、思わず口を閉じる。
彼女の目から、涙が零れ落ちていた。
「ゴメンナサイね……このこがこんなに楽しそうに笑ってるの……久しぶりに見たのよ、
この子が笑ってるところ」
はらはらと涙をこぼしながら言う彼女に、少し驚く。
「夫と別れてから、このこ、私の前で笑ったことがなかったの。……私は、この子を過保護にし過ぎたのよね……ゴメンナサイね、あの時、あなたのことぶったりして……」
「いえ、良いんですよ。別に」
そう言って、うつむく。
なに、やってんだろうな。
「そうだ、少し待ってて」
そう言って、彼女は立ちあがった。
それから、どこかへ行って何かを持ってくる。
手紙……だな。
「あの子が書いたのよ……あなた宛に」
そういわれて、少し驚く。
封筒を開けて、紙を取り出す。
髪と一緒にスミレのしおりも出て来た。
中身を、読む。
そこにあったのは、咲の気持ちそのものだった。
封筒に戻して、彼女に返す。いや、返そうとして止められた。
「これは、あなた宛のよ。あなたがもってて」
「…………分かりました」
受けとって、立ちあがる。
「おれ、もう帰りますから」
もう、ここに来ることもないだろう。
「……ありがとう」
つぶやかれた彼女の言葉が、大きく聞こえた。

あれから、彼女は見ていないし噂も聞かない。
例のスミレも見ない。
おれは、あのスミレは咲が持っていったような気がしている。
おれに、思い出させないように。

『拓也へ
拓也、あなたがこの手紙を読むとき、私はもうこの世にはいないと思います。
私が持ってる病気って、喘息だけじゃないの。難しい名前だったから覚えてないけど……
余命が、半年ぐらいだって言われてて。だから私、拓也にいつも通り接してて欲しかったの。
だから、黙ってたの。ゴメンね。でもさ、拓也の事だから、言ってたら変に優しくしてたでしょ?
それは、イヤだもん。
拓也、私が死んでもそれはあなたのせいじゃないわ。
だから気にしなくてもいいの。
最後に無理したのは、拓也といられるのが最後のような気がしたから。ねえ、拓也。結局私さ、
あなたに、迷惑かけちゃったんだよね。……ごめんね。
拓也は、ずっと元気でいて。
私の事を忘れないで、なんていわないから。ううん、忘れた方がいいのかもしれない。
それでも、拓也。
拓也には、私の分まで笑ってて欲しいの。
身勝手なお願いでしょ?でも、拓也ならかなえてくれるもんね。
それじゃあ、元気でね。
PS.お見舞いに来てくれてうれしかったよ。
   優し過ぎるのも、酷だよね。』


なあ、咲。
おれさ、今、笑ってるか?



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