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竪琴弾きと春-12-
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見てはいけないものだったのだ、と思う。
”彼”の部屋にあった拳銃も。”彼”が家族を撃ち殺したことも。その時の”彼”の様子を封じた、自分自身の記憶さえも。
記憶が重い。
”彼”がくれた髪飾りを何度も指でなぞり、胸元で抱きしめる。可愛らしい髪飾りだった。前の自分ならば似合ったのだろうか、とわたしはぼんやりと考える。無邪気に”彼”のことを信じて、他のことを考えることも無く、小屋での生活だけを思って。あの時の自分ならば、戸惑いなくこの髪飾りを付けられた。
でも、今は記憶が邪魔をする。過去が重い。
ならばどうすれば良いのだろう、と彼女は髪飾りを撫でながら考えた。”彼”は、わたしの家族を殺した。でも、少女を助けてくれた。彼女を暖かく迎え入れて、守ってくれた。少女は、”彼”と過ごすのが好きだった。今の生活を手放したくは無いと、そう思っていた。
そうすると、答えは簡単だ。”彼”は、自分が振り返ったことに、まだ気付いていない。ならば、”彼”にそれを気付かせなければいい。わたしは、永遠に少女を演じれば良いのだ。そうすれば、彼女は”彼”の知る少女のまま、”彼”を憎み愛しながら、過ごすことができる。
矛盾しているのは分かっている。おかしいのも、分かってる。それでも、望むのは”彼”との生活だ。どれだけ歪んでいても、構わない。
わたしだけが振り返ったのならば、”彼”がソレに気付かなければいい。”彼”が気付かず、振り返ることもせずにいれば、一緒に居られる。わたしがどれだけ”彼”を憎み恨んだとしても、殺したいと思ったとしても、彼女は許すことができるのだ。だから。
時々、”彼”が憎くて仕方が無くなる。家族を殺された時のことが甦って、”彼”を殺してしまいたくなる。”彼”に髪飾りをつけてもらうのは、わたしが彼女である証。それでも憎くて仕方が無い時は、”彼”に気付かれないように、顔を見られないように背中に寄りかかる。
そうしていると、落ち着くことができた。段々とわたしが消えていって、”彼”の知る少女に戻ることができたのだ。わたしが少女でいられれば、冥界に落ちなくてもすむ。そう思いながら外を眺めてみれば、遠くにあるはずの春も、近付いているように感じた。
二人で、一緒にこの冬を越える。そして、暖かな春を迎えて、穏やかな世界を過ごす。他の世界なんて、要らない。今までどおり、二人でいられればいい。そうすれば、わたしは少女でいられる。時々甦ってくる憎しみを封じて、少女のまま。歪んでいても構わない。ただ、この生活が壊れなければ良いのだ。
それは、多分”彼”も同じはず。
だから、わたしは少女でいよう。彼女を演じ続けることにしよう。それが、わたしのため。”彼”に髪飾りをつけてもらって、少女でいていい、という許可を貰うのだ。そして、”彼”と一緒に過ごす。過ごしたい、と思う。
この冬の間”彼”にばれなければ、一生ばれない自信がある。
だから、春になったら――。
冬は長い。特に、今年の冬は。
長くて、苦しくて。辛くて、淋しい。
愛憎の矛盾が、痛いぐらいで。
この冬、”彼”にばれずに過ごせれば
もう永遠なのだと、そう信じた。
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