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咎人達の輪舞(2) ホークスが渡してきた情報には、大抵間違いはない。 「ナギ、コレだ」 周囲を見回していたナギをジャンが呼び、部屋の端に置かれていた大きな金庫を指差した。言われて、そちらに行き、頑丈そうなそれを見る。 「面倒そうだなぁ。ジャン、やってみる?」 「いや、お前の方が早いだろ。面倒臭がるな」 「えぇ……」 唇を尖らせて嫌がりながらも、ナギはさっさと金庫の前に陣取って鍵を弄りだした。 流石に三年の経験の差は大きいのか、俺なんかよりはよほど手際が良い。頭を使うのは弟に任せた、とか何とか言いながら、こういうので頭を使うのは別に良いのだろうか。 ここへ忍び込む為の計画を立てた時も、ジャンの言った事をナギが実行可能なようにかなりの調整を施した、と言った感じだった。 半年ほどナギと組んでやっているが、未だに、彼の実力というかどこまで考えているのかは良く分からない。 分かるといえば、兄馬鹿ということか。 金庫の扉に耳を押し付けて微かな音の変化を頼りに、鍵のダイヤルを弄っていたナギが、にんまりと笑みを浮かべた。 悪戯が成功した時の、子供の表情。 そういった表現が、一番しっくりくる。 「開いた。罠はないよ、多分」 「多分て」 「だって、俺、罠解除苦手だし」 ぐれたように言いながら、金庫の取っ手に手をかけるナギ。 少し深呼吸して、ひょいとこちらを振り返った。 「いい?」 「どうぞ」 片膝をついて聞いてくきたナギに答えると、彼は少し楽しそうな顔をしながら金庫の扉を一気に開いた。そのまま黙って耳を澄ますが、何も音はしない。 顔を上げたナギがにやっと悪戯が成功したかのような笑みを浮かべ、俺はそれに半分苦笑するような顔をしながら、ナギと手を打ち合わせた。 金庫に入っていたのは、数え切れないほどの宝石の山だった。 話にはそうと聞いていたものの、やはり目が眩んでしまいそうな量だ。思わず「すげぇな」とジャンが呟くと、ナギは失笑というか嘲笑に近い顔になって 「確かに、な」 と返事をしてくる。 それに思わず眉を顰めて何だよと聞こうとしたが、ナギが直ぐに「ほれ、さっさと詰めろよ」と促してきたので、渋々それに従った。 準備していた袋に宝石を半分ほど詰め込んで、それを背負うと、作業を終わるのを待って窓の外を睨みつけていたナギが、失笑しながらこちらを見た。 そして、すまん、と言いながら顔の前で手を合わせる。 「やっぱ、罠発動してたみてぇだ。囲まれてる」 「……は?」 「逃げ道なさそうだなぁ、強制突破しかないっか」 すまないと言いながらもどこか楽しそうにナギが言い、窓に手をかける。 そして、ちらりとこちらに目を向けた後、 「行くぞ」 と声を掛けてばっと開いた。 「ジャンっ!」 「あ……ああ」 窓枠に足をかけながら言うナギに慌てて返事をし、宝石の入った袋をしっかりと持ち直して、屋根を滑り降りるナギの後を追う。 身を屋根に添わせるようにして滑り降り、雨どいにひょいと足を引っ掛けて止まる。なんか猫みたいな奴だよな、といつものように思いつつ、その横に滑り降りて屋敷の周りに居る人々を見下ろす。 そして、思わず、少しだけ呻いた。 「こりゃまた……すげぇな」 「でも、まだ何とかなるだろ。憲兵隊は来てないし」 言いながら、考えるように左耳にだけついているイヤリングに触れる。 半年見ていて気がついたことだが、これはナギのクセらしい。 細い鎖に二つの小さな赤い色の宝石がついているそれは、大して高くはないだろう。しかし、女物だ。 それを疑問に思って前に何なのかと聞いたことがある。するとナギは少しキョトンとした後に、あぁ、と笑みを浮かべてイヤリングをそっと触った。 「これ、形見なんだ。お袋の。俺、すぐ物失くしちゃうから、ずっとつけてれば失くさないだろ?」 そう言って、楽しげに笑ったのだ。 何故リクがつけていないのか、というのは気になったが、直ぐに別の人と話し出してしまったので聞くことは出来なかった。 「ジャン、あっちからなら、その袋持ったまま屋根の上から壁乗り越えるのも可能だよな?」 「え、あ、ああ」 ナギに言われて、ジャンは慌てて返事をした。 それに少し不思議そうな顔をしたものの、ナギは直ぐに真剣な顔に戻ってじゃあ、と声を続ける。 「俺が囮になる。その間に逃げろ」 言われて、思わずえっと声を上げた。 「馬鹿、お前になんかあったら……」 「大丈夫だよ、お前が逃げる時間を作るだけだ。たいした事じゃない」 「そういう問題じゃなくて、俺が」 「ジャンが?」 「……や、なんでもない」 思わず「俺が危険なんだ」と言いかけた言葉を飲み込んで、ふいと顔を逸らした。 ナギに何かあった場合、リクやホークス辺りの反応が恐ろしい。ある意味、自分が囮の方が怖くないのだ。 そうなのだが、小柄で体重も軽いナギは、瞬発力はあるものの力がない。だから、ホークスは毎回ジャンのように通常以上の体格の持ち主とペアを組ませることにしているのだ。 そうじゃないと、正直仕事にならないのだろう。 大体、盗みに入ったのに重いから持って帰れない泥棒がどこに居る。 よって、この状況ではジャンが宝石を持って逃げる、その為にナギが時間を稼ぐという方が効率も良いし理に叶っているのだ。 「ジャンー? それで?」 「うぃ、了解了解。けど、絶対帰って来いよ」 俺のためにも。 最後の言葉を声に出さなかったが、ジャンの言葉に、ナギは少しだけ笑って了解、と答えたのだ。それから、直ぐにじゃっと手を振って、雨どいに手をかけて、外庭の方へとそれこそ本当に猫のように降りて行った。 「いたぞ、泥棒だっ!」 「捕まえろっ!」 護衛の声がして、一人降りて行ったナギの所に注目が集まるのを確認してから、ジャンは視線を逸らして屋根の上を伝っていった。 続 |
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