不均衡な均衡(1)  



なんだか、久々に夢を見た。


 泣き声がした。
 最初それは誰の泣き声か分からなくて、余りに真っ暗だったから自分の泣き声かと思ったぐらいだ。
 けれど直ぐに、そうではない、と思い直した。


 これは、俺の泣き声じゃない。


 確かにあの時――そうだ、これはあの時の夢だ――俺は泣いていた。
 一人っ子だった俺は両親に甘えきっていて、それなのに両親は俺だけを残して死んでしまった。瓦礫の小さな隙間から俺だけを脱出させて、そして死んでしまったのだ。
 どうすれば良いのか分からなかった。


 一人はイヤだ、いやだよ。


 そう言って涙を流して。元は自分の家だったその瓦礫の前で座り込んでいた。
 長い時間。かなり長い時間、身動きもせず、ただそこで泣いていた。
 そしてそのうち、泣き声が聞こえてきたんだ。


 助けて。


 そう言っているような、悲痛な声。
 だから、その子を助けたんだ。
 それがリクだった。


 昔っから、他の人が泣いてるのを聞くのは嫌いだった。他の人が苦しんでいたり、悩んでいたりすると、一生懸命に笑わせようとしていた。
 笑っていたら良いことがあるよ。
 そう言ってくれたのは確か、俺の母親方の祖母で。
 彼女は優しそうな笑みを浮かべながら、俺を膝の上に乗せて言ったんだ。


 いいかいナギ。
 あたしゃずぅっと若い頃に、爺さんに死なれたんだ。それでも、一所懸命に笑いながら、あんたの母親を育てた。いい事がある、絶対に良い方向に向かうって信じてね。
 そしたらどうだい。
 ナギ、あんたみたいに可愛い孫が出来た。望んでもなかったことだよ。
 あたしゃ嬉しい。もう、心配することなく、この余生を過ごしていけるじゃあないかい。
 ナギ、あたしゃ幸せだよ。笑っていたから、こんな良い人生になったんだ。そう思う。
 ナギ、あんたはどうだい。


 実際、俺には良く分かっていなかったんだと思う。それでも、俺は祖母に向かって大きく頷いたのだ。


 そうだよ、おばあちゃんが言うんだから、そうに決まってる。
 笑っていたら良い事あるよ。


 その言葉は、強烈に俺の頭の中に焼きついた。
 だから、泣いていたリクにも同じ事を言ってやったんだ。そして笑って見せた。
 いい事がある。
 俺だって一人じゃなくなったんだ。だから笑える。
 いいことがある。  リクにはそれを何回も言った。
 まだ『鷹目』に入って居なかった時、厳しい冬の寒さの中であちこちらから掻き集めて来た布を自分たちで繋ぎ合わせ、それに一緒にもぐって寝た。
 寒いよと泣き言を言うリクに出来るだけ風が当たらないように抱き寄せて、泣くなよ、と何度も言ったのだ。


 泣いてたら余計に寒いだろ。それぐらいなら、笑って見せろよ。
 そだ、暖かいスープとか蒲団とか、でっかい家とか考えて見たらどうだ。すっげぇ楽しい気分になんないか?


 兄ちゃん、それ、切ないよ。


楽しそうに声を弾ませてナギが言うと、リクはそう言いながらもくすくすと笑った。それからナギは馬鹿な話を並べていって、リクを笑わせることに専念した。
 そうしていれば、寒くはなかった。
 だってそうじゃないか。
 楽しいと思っていれば、嫌な事も忘れられる。
 祖母が言っていたのは、多分そういうことなのだ。だから。


 なあ、何で泣いてるんだよ?


 俺、頭は良くないし全然頼りにならないかもしれないけど、それでも、兄貴になってやるって言ったんだ。
 だから、せめてお前のことを笑わせてやるよ。
 そうしようって決めたんだ。
 ずっと前、お前が廃墟の中で泣きじゃくっているのを見つけた、その時に決めたんだ。
 だから。


 だから、教えてくれよ。


 なんで泣いてるんだ。
 何かあったのか……?


 リク。

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