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不均衡な均衡(2) 呼びかけると同時に、急に目が覚めた。 右手を額の上に乗せて、その状態のままぼんやりと天井を見る。 そういえば、最近はこれも普通だと感じるようになってしまっていたけど、トタン屋根で風も良く通る家に住んでいた俺たちにすれば、この天井だけでもかなり幸せな方だ。それに、この暖かい蒲団。 寒い寒いと毎晩のように泣き言を言わなくて良い。 なんだか、すごいな。 そんなことを思いながら起き上がって、周囲を見渡す。 リクのベッドは、もう空だ。 ナギに比べて几帳面なリクは、いつも起きた後直ぐにベッドの蒲団を整えて出て行く。ぐちゃぐちゃのまま、放って行ってしまうナギは、いつもそれでリクに怒られるのだが。 時間的には……もう、昼だろうか。 夜に仕事をした次の日は、大体コレぐらいの時間に起きる。一応、昼にも仕事はあるのだが、夜に仕事が入った場合に限り、次の日の仕事は見逃してもらえるのだ。 軽く頭を振って眠気を飛ばしベッドから出て、椅子の上にかけてある服をさっさと着て、部屋から出た。 ナギとリクの部屋は、『鷹目』の二階にある、少し広めの角部屋だ。 一階の大部屋にある階段を上って、長めの廊下の一番奥。 そこに位置している。 二人は『鷹目』に住んでいるが、ギルドの人全員がここに住んでいるわけではない。 連携している表側のギルドに数人グループで住んでいたり、金のある人は自分の家を持っていたりもする。 あまり広くないこの家では、全員が生活する事なんて不可能だからだ。 廊下を渡り階段を下りて、一階へ。 大方は仕事に出ているのだろう、一階を占拠している幾つかの大テーブルには、何人かの人間しか座っていない。 リクは……テーブルの端っこで、ジャンとなにやら話している。夢の事が少なからず引っかかっていたからなのだろうか、その姿を確認して少しだけ安心した。 それから、二人の所へ行く前に台所に顔を出し、すんませーん、と声を掛ける。 「なんか、喰うもんあるー?」 台所にあるテーブルに座っていたのは、ネリーという、多分二十代後半から三十代ぐらいの女性だった。 軽くウェーブのかかったこげ茶色の硬い髪を頭の後ろで一つにくくり、少し釣りあがった目が少し厳しい彼女の性格を良く表している。 身長は、百六十、には少し届かないぐらいではあろうが、それでも百五十五しかないナギからすれば、高い。 彼女がいつから入っているのかはしらないが、それなりに、ローズやマリーからの信頼は得ているらしい。台所は、基本的に二人以上の人が居るのが普通だ。 そんなネリーがちらりとこちらを見て、少しつまらなそうに眉を顰めた。 「なんだい、ナギか」 「そうだよ、ネリー。悪いねー、ロイじゃなくて」 ロイというのは、確か『双頭』の時代からこのギルドに所属している古参の人間で、年齢的にはホークスと同じかもう少し上ぐらいだと思われる。 昼は『鷹目』近くにある鍛冶屋で働き、時々は夜の仕事にも出るものの、基本的に夜も夕餉の辺りになるとこちらへやって来て飯を食い、良く酒を飲む。 彼はかなりザルな方らしく、金をかけて飲み比べをしては、俺は丈夫だと豪語する人を負かしては楽しんでいるのが常だ。身長は百七十ほどしかないものの、体格は良い。 筋肉質といった方がいいのかもしれないが。 しかし、いかつい顔をしているわけでもないし、性格的にもきつい訳ではない。げらげらと豪快に気持ちよく笑う姿は、ナギ的には、結構好印象だ。 そして、そんなロイのことをネリーが好いている、というのもロイ本人を抜かしては公然の事実だ。 だから、色々な人にネリーがからかわれる事になるのだが、それでもロイは気がついていないらしい。 「何を言ってるんだい。子供のクセにっ!」 言いながら叩こうとするネリーの手を笑いながら避けて、そんで、と聞きながら台所に入る。 「ナギ、あんたね。ローズさんの許可もなく入るなって何回も言ってるだろっ」 「えー。でも、マリーは許してくれるけど?」 勝手に戸棚やら鍋の蓋やらを開けて見るが、食べれそうなものは見当たらない。 はぁ、っと、ナギの後ろでネリーがため息を付いた。 「今、買出しに出てるところだよ。悪いけど、何か食べたいなら外で食べてきな」 「マジで? 俺、ネリーさんのごはんが食べたいなぁ、なんて」 「心にもないことを言うんじゃないのっ」 今度こそ叩かれそうになって、いつものように防ごうと思って反射的に左腕を上げて。 「……いてぇ」 鈍い痛みしかなかったから忘れていた傷に痛みが走って、ナギは思わず眉を顰めて小さく呻いた。 「なんだ、あんた怪我してたのかい? 悪いね、知らなかったもんだから。大丈夫かい?」 「んー、あぁ、平気平気。もう全っ然、痛くないしっ」 妙に心配されるのは嫌だから、少し残る痛みを無視して腕を振って見せると、ネリーは 「無理するんじゃないよ」 と苦笑しながら言って来た。 それに笑いながら頷いて、んじゃ、と今度は右腕を軽く上げる。 「外行って、飯、食って来る。この様子じゃ、リクもまだ?」 「ああ。どうせ兄貴も食べに行くだろうからって言って待っててくれたみたいだよ」 そう言って、なんであんたが兄貴なんだろうね、と笑う。 内心少しだけ同意しながらも「しっつれいだなっ」と口では言って。 それじゃあっと今度こそ本当に台所から出た。 さっさとリクのところに近付いて、リクーと呼びかける前に気付かれた。ジャンが一瞬こちらを見て、よっと片手を上げてから軽く腰を浮かせつつ、 「じゃあ、俺、人と会う約束あるから」 とリクに向かって言った。 「うん。あ、さっきのは」 「分かってるよ。じゃあな、ナギもまた後で」 最後のは顔をこちらに向けて言い、そそくさと席を立ち外へと出て行った。 何だか少しだけ疎外感を感じたが、今はどうでもいい。腹が減ったら動けないし、食事が優先。 「ほんじゃ、さっさと食いに行こうぜ。腹減って死にそう」 「はいはい」 楽しそうに言うナギにリクが苦笑しながら答えて腰を上げたところで、おい、と後ろから声を掛けられた。 なんだよぅ、と唇を尖らせながら振り返り、『鷹目』の中でも気になるのか、帽子を被ったホークスのことを見る。 そして、思わずにやりと笑った。 「ホークス、そのうちはげるよ?」 「殴られたいのか、お前」 帽子を指差しながらナギが言った言葉に、半ば呆れて半ば怒りつつホークスが答え、そんな話じゃなくてな、と言葉を続ける。 「これ、ついでに届けて来い。いつもよりちっと少ないけどな」 いいながら、ほいと投げられた小さな袋を両手で受け取った。 ずしり、と手の平に重さが加わる。 昨夜盗んできた宝石の一部だ、という事はすぐに分かった。 「あれ、換金してないのか、これ」 手の上にのるそれのごつごつした感覚を疑問に思い聞くと、ホークスは小さく頷く。 「まだ余裕はあるって話だったからな。それまでは、このまま取っておけば良いだろう」 なるほど、と小さく頷き。 「ほんじゃ、行ってきまーす。ほら、行くぞ、リクっ」 「わかったって。それじゃ、行ってきます」 片手を軽く上げて駆ける様に出て行くナギと、一方で少し会釈をしてからそれを追いかけるリク。 それを見送って。顔を隠すように帽子を軽く引っ張って、 「さってと、俺も行きますか」 小さく呟いてから、ホークスも扉をくぐった。 続 |
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