不均衡な均衡(3)  



 周辺諸国の中では比較的大きな力を持ったこの国の王都であるだけあって、大通り沿いは常に賑わっている。夜になればこの中心街より少し南に下った所に位置する歓楽街に光が灯り、夜の熱が篭っていく。


 この歓楽街辺りには裏路地が多く、貧民街があり、孤児も多く暮らしているのはこの辺りだ。
 一方で、通りの北へ行けば、そこは地位の高い“貴族様”が住んでいる閑静な住宅街だ。小汚い人間がここへ近付くと、あっという間に追い払われてしまう。
 大通りの突き当りには噴水がついた公園があり、東に向かえば巨大な門が、西に向かえば王城がある。
 『鷹目』は東にある門と歓楽街の中間辺りにあり、大通りからは少し外れている。しかし、連携しているギルドはこの都市の東南側の広くに分布しているので、物流などに関してはそんなに困る事はない。
 ちなみに、北側と王城近くでは、また別のギルドが支配しているらしい。



 今、ナギとリクが歩いているのは南から公園へと向かう大通りだ。
 この大通りにはずっと屋台やら何やら、店が並んでいる。その途中にぼつりぼつりと裏通りへと続く道があって、中にはドラム缶に焚き火をして、こんな時間から酒を飲みながら火に当たる男たちの姿もあるが、彼らは仕事を持っていないのだろう。
 小汚い店ばかりではあるが、都市の中で最も活気があるのがこの辺りだ。
 一方で、スリや喧嘩、孤児が多いのもこの辺りなのだが。


 公園からしばらくの間はまだ活気があるのだが、“貴族様”達の地域に入ってしまうと、もうあまり店がない。
 というか、“貴族様”達に、多くの店がのけられてしまうだけなのだが。
 残る店といえば、高級な布地や食品、珍しい他国の品々を扱う店だけ。それらの品々は外へとお出かけしていらっしゃった“貴族様”達の観賞用となり、時には法外な値段で買い取ってもらえる事もあるらしい。


「リクー、これでいーか?」
「ん? ああ、いいよ」
「じゃ、おっちゃん、これ二つちょーだい」
「はいよっ」 


人が群がっている屋台から少し離れていたリクのところへ、両手に買ったばかりの昼食を持ったナギが人ごみの間をすり抜けてやって来て、ほい、と片方の紙袋を渡した。
 どうも、とリクが答えるのも聞かずに、ナギはさっさと袋を開いてその中身にかぶりつく。


「おー。リク、これうまいぞっ」
「そりゃ、良かったね」


 一口飲み込んで直ぐに振り返り言って来た兄に適当に答えると、むっと一瞬だけ眉を顰められた。
 何か言って来るかと思ったのだが、それはどうでもいいらしい。ちょっとぐれたような顔をしたものの、直ぐにパンを食べる事に意識を戻した。
 よほど腹が減っていたのか。
 まあ、自分よりもよっぽど動いているのだから当然なのかもしれないが、それにしても、何でこの兄貴は身長もあんまり伸びなければ横にも伸びないのだろうか。
 そんなことを思った自分に少しだけ苦笑して、リクも紙袋を開いて中のパンに口をつけた。


「……ホントだ、おいしいね」
「だろっ!」


 ぽそっと呟くと、絶対聞いていないと思っていたナギが振り向いて、嬉しそうに言って来る。


「ま、でも、兄貴が自慢する事じゃないし」
「むー、そりゃそうだけどさ」


 思わずにやっと笑みを浮かべてリクが言うと、ナギは唇を尖らせながらそう答えて、でもうまい、と続けた。
 ぱくり、と再びパンにかぶりつく。
 薄く作られたパンの生地に、数種類の野菜と、数種類のハーブで味を付けられたチキンを挟み込んである。この辺りでは一般的な料理なのだが、この屋台の人は、少し変わった香辛料を使っているのだろうか。
 香り立つハーブ以外にも、何か別の味がするが、良く分からない。
 胡椒、だろうか。
 胡椒は他大陸から運んでくるので値段が高く、こういった店では余り使われないのだが。どこかのギルドと連携でもしているのだろう。


食べながら二人して通りをのんびりと歩き、パンを食べ終わったところで、南側から西へと抜ける裏通りを通って、奥まったところに位置していた孤児院へと出た。
 孤児院は、都市の中には幾つか存在している。ナギやリクは世話になったことはないが、この孤児院『アナトーリー』は代々神父が院長を勤めているだけあって、虐待やらはないらしい。
 それ以外の孤児院では、そのまま子供を売り飛ばしてしまったり、国の出す助成金が目当てであって大した面倒も見てくれない、むしろ子供が脱走して孤児に戻りたがるような所の法が多いそうだ。だから、こういった孤児院は珍しい。
 裏路地の先にあるものの、この孤児院はしっかりと鉄の柵を作り浮浪者や不届き者の侵入を防いでいる。
 外から見ても分かるのだが、柵の中には緑の芝生が広がっており、小さいながらも噴水が一つと、何本もの木々が植えられていた。
 そして、奥にある白い建物は、外からは良く見えないが協会に似た装丁で、毎週キチンと祈りも捧げているそうだ。


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