不均衡な均衡(4)  



「たのもーっ!」
「……兄貴、それはワザと?」
「うん? 何が?」


 真面目に聞かれた。
 前一緒に来た時はこんな事言ってなかったから、多分、デュークか誰かに教えられたのだろう。あの辺りの人は、ナギがほとんど全てのことを鵜呑みにするので、楽しんで変なことを教える。
 まあ、楽しいのは分かるが。
 でも、一々訂正するこちらの身にもなって欲しい。
 小さくため息を付いて、


「すいませーん。鷹の使いのものですけどー」


 声を掛けた。
 その声に、庭の中央辺りに居たシスターが顔を上げて、門のところまで駆け寄ってくる。


「あらあら、ナギさんとリクさんでしたのね。すいません、すぐ開けますわ」


 柔和な顔をした、小柄な女性だ。
 ここには、神父が二人ほどとシスターが数人詰めていて、孤児院に居る子供達と一緒に生活している。
 彼女はそんな一人で、元々この孤児院で育ったのだという話をしていた。自立して孤児院から離れる数多くの子供たちの中で、彼女のようにここに残って子供の世話をしたいという人も、少なからずいるそうだ。


「いや、渡すだけですし……」
「そんな事言わずに。子供たちも喜びますもの」
「そうだよ。いいじゃんか、リク」


 断ろうとしたリクを、シスターが止め、子供好きらしいナギが詰まらなそうな顔をしながらぶいぶいと文句を言って来る。
 それに少し苦笑して、まあ、どうせ急用があるわけでもないのだし、いいか、と思い直してシスターに軽く頭を下げた。


「……じゃあ、お願いします」
「ええ、分かりましたわ」


 大きな門の右側には、小さな人が出入りする為の門がついている。その門の鍵をシスターががちゃがちゃと弄り、ぎっと音を立てながら門を開く。
 その門をいち早くナギがくぐり、リクが後に続く。


「なな、フォルは元気? ネシーとかちびっこかったけど、でかくなった?」
「ええ、皆元気ですよ。ネシーも、前に比べてずっと大きくなりましたから」


 楽しそうに聞くナギにシスターがにこやかに答え、どうぞ、と庭の奥にすすめる。それじゃあ遠慮なくと進もうとする兄を苦笑しながら止めて、


「兄貴、先に渡して」
「ん? あ、ああっ」


 忘れていたらしい。
 慌てて懐を探って袋を取り出し、ほい、とシスターに手渡す。
 それにシスターは少し複雑な顔をしながら、ありがとうございます、と答え。


「あ、あの……」
「んじゃ、リク、行っていいよなっ!」
「あーはいはい。しばらくしたら呼ぶよ」


 振り返ってから何故か許可を求めて来るナギに苦笑しながら答えると、兄は嬉しそうな顔になって子供達の所に半ば駆けて行った。
 この孤児院には何度もやって来て、しかもその度に一緒に遊んでいる為だろう、ナギはかなり子供たちに好かれているようだ。身長の問題もあってか、あまり年上として見られていない感は否めないが、ナギは別に構わないのだろう。


「あー、兄ちゃんだーっ!」
「なにー、今度はなにしに来たの?」
「ねぇ、今日は遊べるんでしょ。遊ぼうよっ!」


 嬉しそうに駆け寄ってきた子供達に適当に受け答えしながら、自分もそれなりに楽しそうに遊ぶ兄貴を見て、少しだけ苦笑する。
 兄貴の、あの人懐っこさというのか人好きのする性格は、天性のものなのだろう。
 子供やら小動物やらは放っておけないタイプらしく、時々、捨てられていた子猫や子犬を拾ってきてはホークスや、彼が居ない時はローズやら、リクにまでも怒られる。
 それこそ最初のうちは、リクも一緒になって「飼おうよ、可哀想だよ。なんで飼っちゃダメなの?」と言っていたものだが、当然というか、今はそれもない。
 捨て猫や捨て犬なんて沢山居るのだ。
 一度拾ってしまったら、多分、際限なく世話を見なくてはいけなくなるだろう。だから無理なんだ。
 そう言えば兄貴も渋々捨ててくるから分かっているはずなのだが、それでもやはり、放っておけないらしい。正直、そのうち孤児の一人や二人、拾ってきてしまうのではないかと、微かに心配している。
 同じ様な状況下で育ったけれど、思うに、自分にはそれがない。ナギのように子供達と遊ぼうとは思わないし、捨てられている犬や猫を見ても、可哀想だとは思うもののそれ以上は何も思わない。
 というか、理性で抑えるのだ。
 だから、それをしない兄貴はすごいと思う。


 そして、似ていないな、とも。


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