不均衡な均衡(5)  



「あの……リクさん」

リクの事を気にしてなのか、そのまま隣に佇んでいたシスターが、ふと、声をかけてきた。そういえば、さっきは何か言いかけていたなと思いつつ、何ですか、と聞き返す。

「これ、のことなんですけど」

 言いながら、シスターがまだ両手に持っていた袋を少しだけ掲げてみせる。
 そして少し言いにくそうに眉を顰める姿を見て、ああ、と納得した。
 この孤児院に対して、『鷹目』は『双頭』やその前の時代辺りから寄付をし続けているそうだ。
 だから、孤児院を管理している人は、その金が裏社会の支配者である自分達が、大抵どのような仕事をしているのかも知っている。一応、汚い金は渡していないという事になっているが、寄付をしてくれている人々と言えども、盗みや殺しを行っている集団であることは確かだ。
 だから、そういった金ではないかと心配になるのも当然だろう。

「大丈夫、ですよ」

 人売りから盗んだ金、と言えば、やはり彼女はいい顔をしないだろう。そう思い、戸惑うシスターをちらりと見てから、そういうだけにとどめた。
 それでも、シスターは一応、言葉の意味を取ったらしい。ふっと顔を緩めて、わかりました、とだけ答えた。
 それを見て、兄貴ならどうするのだろうか、と思う。

 多分、そう、俺みたいな何も分からないような言い方はしない。この宝石を人買いの所から盗んできた事を正直に言って、それから、納得させるのだ。
 屁理屈でもなく、ただ、自分ならこれは正しいと思うから、と。そういうことを、言うのだろう。

 俺には多分、そういったことは、一生できない。
 どうにかこうにか言葉を並べ立てて、さも正しい事かのように理路整然と説明して、理性で納得させるのだろう。いや、それ以前に、そういった努力すらしないですむようにするか。
 ともかく、違う。
 兄貴のように、感情を納得させる事は出来ないのだ。
 だから。

 リク、お前、頭良いんだからさ。俺に出来ないようなこと一杯あるよ。

 何度兄にそう言われても、俺は俺を誇りに思うことは出来ないし、自分がすごいと思うこともない。まして、頭がいいと思うこともない。
 寧ろ、何も出来ない俺にそう言える、兄の方こそすごいと思うのだ。

 ちらりと太陽の位置を見て、孤児院の庭で戯れる子供達と兄貴の姿を確認して。

「兄貴、そろそろ行くよっ」

 声を張り上げて、ナギを呼んだ。


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