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矛の誓(1) 僕は、父が嫌いだった。 体が弱く、情けなくて。元締めとして強くあらねばならないはずなのに、それが出来なくて。 だから、僕は父が嫌いだった。 祖父のように強く逞しい人が元締めであるべきだと思っていたのに、父はその正反対をいっていたから。 じい様が亡くなり力が衰退した『矛』で、父は『鷹目』と友好条約なるものを結んだ。弱腰の、こびへつらうような条約。くだらない。くだらなくて仕方が無い。こんな父と条約を結ぶようなホークスは、何か企んでいるか若しくは、単純なる馬鹿に違いなかった。 元締めとして必死に『矛』を守ろうとする父に、何度か進言をしたことがある。この友好条約は間違っている、と。 言うと、父さんは困った顔をした。 そして、僕に言うのだ。 「なあ、クルト。この友好条約は我々にとっても必要なものなんだよ。じい様が亡くなって、力が衰えたこの『矛』に、必要なものなんだ。 『鷹目』は、あそこのギルドは私達『ピック』なんかよりもよほど力がある。提携すれば、より多くの富が手に入るんだ。そうすれば、『ピック』の力も増す事が出来る。 どうだい、簡単なことだろう。 プライドを捨てたわけじゃない。 私は今でも、この誇りを持っているさ。 矛のように鋭く強く。 じい様の志をついで、私はここに居るんだ。だから、私にも考えがある。 『ピック』を強くしたいんだよ、クルト。 これは彼に屈したわけじゃない。ましてや妥協などですらない。いいかい、これは条約なんだ。彼との友好条約なんだ。お互いに力を認め合い、増強しあう。 それで、私達の力を蓄えて、我らが元に集まる人々を生かすことが出来る。 クルト、分かるだろう。 私達は『矛』なんだ。 強く鋭く。ただ、『矛』と言っても強くあれば良いというものじゃない。鋭くあれば良いというものじゃない。 『矛』は武器だ。 武器は私達と、そして私達の元にいる人々を助ける為にあるんだ。 だからこその友好条約。 分かるだろう。今の私達に、ギルドに居る全ての人を守る力はない。 二年前、じい様が亡くなった時、一気に力が衰えてしまった。だから、それを取り戻さなくてはならない。そうしなければ、私達『ピック』は『矛』であることすらできなくなる。 今、私達の『矛』は弱くなっている。 崩れそうなほどに。 自らの身を守る事しか出来ないほどに。 クルト。もし彼が、ホークスが私達の力を権力を、私達の元にいるギルドを自らの所に取り込もうと考えたのなら、もうやっている。こんな面倒なことをしなくても良いんだ。『ピック』を潰す事なんて簡単だったはずなんだ。 しかし、それをしなかった。 それが既に、彼の友情の証だよ。彼の誠実さを表しているんだ。何かを企んでいるなんて、とんでもない誤解さ。 分かるだろ、分かってくれよ、クルト。 そうじゃなきゃ、そうしなければ、お前に付いて行こうと思う人は、いなくなってしまうよ。 誇りじゃない。そんなものは後でいいんだ。私達は上に立つもの。何人もの人々を取りまとめるもの。 だから、責任がある。 その人達を守らなければいけない。 自分の命を差し出しても、彼らを守らなければいけないんだ。その為には、何でもするべきなんだよ。 なあ、クルト。ここまで言っても、お前には分からないのか」 父さんは必死だった。多分、父さんは気が付いていたのだろう。 自分の、寿命って奴に。 僕が小さな頃から、父さんは体が弱かった。 良く倒れそうになって他の男たちに担ぎ上げられてベッドに行き、そのまま数日寝込んでしまう事もしばしばだった。何か病気でも持っていたのだろう。僕はそう言った事は全く知らなかったし、自分の体が弱いわけでもなかったから、その病気や苦しみや痛みを、全てを知ろうはしなかった。 ただ、僕は今でも思う。 情けない。なんて、情けないんだって。 そんな父を見ながら育った僕は、自然、自らを強くすることを選んだ。強くなって、『ピック』の名に恥じないように鋭い人間になりたいと思った。 父さんよりも母さんに似ていた僕だから、それには大して苦労はしなかった。毎日身体を鍛えて、じい様に稽古もつけてもらって、僕はどんどん強くなっていったのだ。 強く。強くなる。 そして、自分に自信を持つ。 誇りを持て。志も高く。 父さんみたいに情けない、優しく笑みを浮かべる事しか出来ないような、そんな能無しにはならない。 だって、僕には出来るはずなんだ。誇り高く、力強く、そして皆に尊敬されたじい様の血が、母さんを通して半分は、いや、それ以上は流れているはずなんだから。 じい様の一人娘である僕の母さんは、元気で明るく、凛々しい女性だった。じい様の娘ということもあってなのかは知らないが、何人もの男性に求婚されたという。そんな母さんが何で、こんなに体が弱く情けない父さんと結婚したのか、それは僕には分からない。 ともかく、母さんは父さんを選んだ。他の人は考えなかった、と彼女は言っていたが、それがお世辞なのかどうか、僕に知る術はない。 どうして、父さんと結婚したの。 そう聞いたことも何度かあった。いや、何度かあったように思う。何故そうまどろっこしい言い方をするのかといえば、理由は単純、僕はその答えを覚えていないからだ。 母さんが、笑ってくれたことを覚えている。少し微笑んで僕のことを撫でながら、父さんと結婚したのはね、と答えてくれたことも覚えている。 それなのに僕は、その肝心な答えを何一つ覚えていない。 続 |
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