日常と非日常の間(1)  



「そんでな、ネシーの奴、俺よりもおっきくなってたんだぞっ! なんか生意気だ」
「いや、それはネシーが悪いんじゃなくて、背の伸びない兄貴が悪いんじゃ?」

 大通りに戻ってどこへ行くつもりもなく、のんびりと歩きながら、リクは苦笑しながら答えた。夕方も近い。
 しばらくしたら『鷹目』に戻ろうか。あそこの食事は早い者勝ちだから、あまり遅くなると、また食べ物にありつけなくなってしまう。

「そ、そんなことねーやいっ! これでも毎日牛乳飲んでるんだぞっ!」
「……ね、兄貴知ってる?」
「なんだよ」
「牛乳だけじゃ身長は伸びないんだよ」
「えーっ? だって、デュークがっ!」
「んー、今回はデュークもからかってるわけじゃないんだろうけどね。カルシウムだけじゃ身長は伸びないよ」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「寝る」
「寝てるぞ?」
「昼じゃなくて、夜ね、夜。十一時から二時の間にしっかり寝てないと、成長ホルモンって出ないんだって」
「成長ほるもんって何だよ」
「分かりやすく言うと、身長よ伸びろーって命令するもん、かな」
「で、それが?」
「夜にちゃんと寝てないと出てくれないの」
「じゃあ、俺の背が伸びないのはホークスのせいかっ!」
「……なんで?」
「だってさー、仕事を昼の奴だけにしてくれれば問題ないわけで。そしたらやっぱホークスのせいじゃないか」

 そうだそうだ、と勝手に納得するナギ。それを見て苦笑しながら、言葉を続ける。

「そーかー、ホークスのせいかー」
「むー、なんだよリク。その棒読みはっ!」
「いや、べっつにー? ただ、そんなんで恨まれるホークスが可哀想だなーって」

 本気半分、からかい半分で言うと、ナギが膨れた。

「なんだよー、リクは俺の身長が伸びない事は問題じゃないってのか?」
「俺は別に?」

 自分は伸びてるし。

「ひっでぇっ! 自分は伸びてるからって、リクの裏切りもんっ!」
「……や、裏切りも何もないと思うけど」
「じゃあ身長分けろよ馬鹿ぁっ」
「無理言うな馬鹿兄。まあ、そろそろ成長期も終わりだろうし、諦めるんだね」
「えーっ!」

 声を上げて文句を言おうとして、ふと、ナギは黙って足を止めた。
 それから、何かを思い出そうというように軽く首を捻る。

「兄貴、どうしたの?」
「ん……っと、リクに何か聞こうと思ってたんだけど」
「何かって、何。忘れた?」
「ちょーっと待って。もう直ぐ思い出す。後三十秒ぐらい」
「……それで思い出せるんだ」

 呆れてそう答えてから、通りの真ん中では交通の邪魔になると、首を捻るナギを引っ張って道の端に寄った。それから、乾燥した空気に喉が渇いていたので、近くの屋台で飲み物を二杯買った。一つをナギに渡し、もう一つに口をつける。
 ども、と答えながらナギがそれを受けとった。
 柑橘系の実を絞った絞ったジュースで、少しだけハチミツを加えているのだろう。
 少しだけ甘い。もう少し甘くない方が良かったな。
 そう思いながら再び口をつけたところで、

「わかったっ!」
 とナギが声を上げた。
「あれだ、ジャンと何話してたのさ?」
「ごふっ!」

 変なところに入った。
 というか、予想外の所に質問が来た。
 げほげほと咳を繰り返していると、ナギが少しおろおろしながら背中を叩いてくる。いや、別にそれはいらないんだけど。
 しばらくして咳が治まったところで、ナギは再び、で、と聞き返してきた。

「何話してたのさ?」
「なんで、そんなこと聞くの?」
「だって、なんか真剣な顔してたし」

 それはそうだろう。
 けれど、兄貴には話したくない。というか、この話を知って欲しくない。
 だから、ジャンだけに話して口止めもしているのに。

「……気のせいじゃん?」

 再びカップに口をつけながら惚けるが、妙なところで勘の鋭いナギはそれでは騙されてくれない。

「気のせいなんかじゃないやい。リクの表情はあんま動かないけど良く動くしっ!」
「うん、言っている意味がさっぱり分からないよ?」
「だから、つまり分かりやすいってことだよ!」

 そうだろうか。
 学校の友人にはよく、お前の考えは分かり難いと言われるのだが。

「そうでもない、とか思っただろ今。友達に分かり難いと言われる、とか」
「……なんで分かるの」
「だって、前に言ってたし」
「そうだっけ? 俺、覚えてないけど」
「そうだよっ! っていうかお前、話逸らそうとしてるだろ」
「別にそんなつもりもないけど」

 けれど、話を逸らしたいのは事実だった。
 別に、後ろめたい事を隠しているわけではない。
 今兄貴に言えば、それを気にしてしまうだろうから。自分で答えを見つけてから、それを話したい。
 だから、年的に最も近いジャンに、相談した。
 たったそれだけの事だ。

前へ     次へ     トガビトメニューへ   小説メニューへ

SEO [PR]  冷え対策 再就職支援 わけあり商品 無料レンタルサーバー ブログ SEO