日常と非日常の間(5)  



 そのまましばらくの間、二人して無言で空を見上げていた。いや、時々ぽつりぽつりと言葉を交わしていたような気もする。それでも、それらの言葉は沈黙の中に消えて言ってしまった。
 昼休み終了の鐘が鳴って、ようやく、時が動いた。

 授業に行かなくちゃ、とは思うのだがここから離れたくない。

 どうしようか、というように彼の方を見ると、ばっちりと目が合った。
 それから少しして、彼は苦笑すると、ここにいようか、と言ったのだ。

「……いいの?」
「なんで?」 

思わず聞き返すと、彼はむしろ不思議そうな顔をしてこちらを見た。
 それに戸惑って、だって、と小さな言葉で呟き、続ける。

「だって、リク君、奨学金取るのに頑張ってるんでしょ? 授業、さぼっちゃったら」
「ああ、そのこと」

 軽く頷きながら彼は言い、少し笑った。
 なんだか、柔らかみのあるその笑顔が、意外に思えた。

「一回ぐらい平気でしょ。それより、これで君を放っておいたら後で気になるし、兄貴にも怒られるしな」

 それは、喜んでいいのか何なのか良く分からない。
 寧ろ、案外子供っぽい言葉に少し笑った。

「仲良いんだね。私なんて、あんまり弟と話さないのに」
「……まあ、唯一の家族だしね」

 苦笑しながら答えられて、思わず、ごめん、と謝ると、気にしないでと答えられた。

 それから一時間、二人で他愛もない話をして。何となく鬱々としていた私の気持ちが晴れた辺りで、別れた。
 後日、父さんや弟と、多分初めて、マトモに話した。
 それは明らかにリク君の影響で。笑っていればいい事がある。黙って俯いているよりも笑えるようにしようと、そう思えたから。
 未だに時々同じ事で悩む事もあるけれど。それでも、私は。
 前より、学校が好きになれた。
 それはもしかしたら、リク君がいる御蔭かもしれないけど。
 そして、それ以来。
 私は前よりも笑えるようになった。
 鬱々としていることが、一気に減った。

 だからなのか。
 私は。
 みゃあ、とちびが鳴いて擦り寄ってきたのに驚いて、ユフィは身を起こした。そして、そういえば、体洗ってあげてないな、と思う。

「ちび、おいで」
 言いながらちびを抱き上げて、ベッドから降りる。
「体洗ってあげる。それから、ミルクでも飲もうか」

 ねー、と言いながら頬擦りして。
 少し身をそらせながら鳴き声をあげるちびに、くすりと笑みを零した。


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