日常と非日常の間(5'  



 いつも、会合の場は暗い。

 それは集まる時間が既に夜に入りかかっているというのも理由の一つだが、その前にこの酒場自体も薄暗いというのが主な理由だろう。裏路地の奥まったところにあるこの酒場の主人は、やはり怪しい雰囲気を出してみたいじゃないか、とかいう良く分からない理由で、吊り下げたランプの数は少なくして、少し曇った光が落ちるようにしているのだ。
 テーブルや椅子もわざわざ古めかしいものを選んで置いてあるし、雑然としているように見える酒瓶の置き場所も、彼に言わせれば厳密な計算の上に成り立っているらしい。何度来てみても、どこが計算されつくされているのか、さっぱり分からないのだが。

「今日は早かったな、ホークス」
「別に、いつもどおりだろ?」

 話しかけてきた初老の男にそう答えて、近くにあった椅子に腰掛ける。
 この会合に集まる人数はそこまで多くはない。だから、直ぐに誰が足りないのかは分かる。

「『矛』の奴、また来てないのか」
「ああ。困ったもんだ」

 辺りを見回しながら言ったホークスの言葉に、別の男が腕を組んで答えた。それに、確かに、と小さく頷く。
 『矛』の元締めは二ヶ月ほど前に変わった。当然先代からこの会合の事は聞かされているはずであるが、挨拶に来る事もない。それは、『ギルド』全体を敵に回しているのと同じだ。
 まだ若いから虚勢を張っているのかもしれないが、『矛』の力はそんなに強くない。それをキチンと理解していた先代は、『鷹目』や他のところと条約を交わすことで自らの陣地を守る事に力を尽くした。

 正しい判断だろう、と思う。

 彼が、体が弱く直ぐに亡くなってしまったというのは残念だが、仕方のないことだ。
 出来れば、また語らってみたいと思ってはいたのだが。

「気をつけろよ。お前、『豚』に恨まれてるらしいからな」

 やたらとがっしりした体格の、背の低い男に言われて、ホークスは思わず眉を顰めた。
 『豚』というのは、『ピック』のことだ。新しい元締めになってから、この会合にすら顔を出さない愚かさに、と誰かが面白半分でつけた名前らしい。ホークスはこのような呼び方を好まないが、しかし、そういわれても仕方が無いだろう、と思わなくもない。

「何だよ。なんだって俺が恨まれるんだ」
「さあ、個人的な好悪じゃないか。こないだお前らが請け負ってくれた仕事、あれに手ぇ出したらしいしな」
 言われて、小さく呻く。

 ああいった“制裁”に近い仕事は、この会合で適当に割り振る事が多い。仕事の報酬は一部はこの会合の為に使い、残りはその『ギルド』――この場合は『鷹目』――が自由に使っていい事となっている。

 『鷹目』は人数が多い方だということもあって、そういった仕事を割り当てられる事も多いが、しかし、どの『ギルド』がどの仕事を請け負ったかどうかは会合の参加者しかしらないし、誰かに話してもいけないことになっている。
 それは互いを守る為のルールであり、互いを監視しあっていることにもなっているのだ。

「渋い顔だな。何か失敗でもしたのか」
「失敗というほどでもないさ。ただ、行った奴が傷食らわされたんだよ」

 答えながら、しかし、と首を傾げる。
 あいつは何をしたいんだ。
 『鷹目』に喧嘩を売りたいのだろうか。

「そりゃ、手ぇ出されたせいか?」
「ああ。『矛』が雇わせた護衛だろう。そうじゃなきゃ、あんなヘマはさせない」
「恨まれてるな」
「――らしいな」

 答えて、ため息を吐く。
 分からない。あいつが何を考えているのか。
 こんな事をしても、何もいいことはないだろうに。俺だって、平穏な生活を崩されるような事はしたくない。だから、余計に分からなくなる。

 お前は、何をしたいんだ。
 そう、直接聞いてみたくなる。

「まあ、いいさ。それよりもさっさと話を始めよう。あんまり無駄話してたら、夜が明けちまう」

 自らの考えを振り払うかのように手を振りながら、ホークスは、男たちに向かって言った。

「そうだな。『豚』の話をしてもしょうがない」
「いい加減、なんとかせにゃあかんがな」
「まあ、今のところはいいだろう」
「それもそうだ」

 男たちが口々に言い、ようやく、今夜の会合が始まりを告げた。


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