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愚者の思い(3) 「おぉい、ジャンっ! よかった、良い所に居た」 突然肩を叩かれて、びくり、と心臓が跳ね上がった。 驚いて振り返り、きょとんと不思議そうな顔をした大男……ロイの視線とぶつかる。 「何だ、考え事か? 邪魔したか?」 「い、いや。それより、何だよ。何か用?」 体ごと振り返り、ロイのことを見た。 体格が良いので咄嗟に大男だと思ったが、近くにいるとそうは感じない。実際は、ジャンと同じか少し低いぐらいだ。 ただ、自分がここまでがっしりとした筋肉質ではないので、そう思ってしまうというだけで。 ジャンが聞くと、ロイは体格に似合わない温和な顔に笑みを浮かべて、そうそう、と言いながら彼の腕を引っ張った。 「少し、手伝ってくれ。流石に、一人で二人を運ぶのは辛い」 「何、何の話」 「まあ、来れば分かる。ん、それとも何か、逢引きの予定だったか?」 「ちげぇよっ!」 「なんだ、違うのか」 「そうだよ、何か悪いかっ」 「いや、悪くはないがな。しかしな、ジャン。お前、そろそろ女の一人や二人」 「はいはいはいはい、そんなの後で聞くからっ! どこに、行けば、いいんだよ?」 話を遮って聞くと、ロイはそうだそうだ、と言いながら大通りの端へとジャンを引っ張っていった。 そして、 「こいつらだ」 といいながら、血だらけになった男と、その横で蒼白になっている女を指差す。 「夜盗に襲われたみたいだから、うちに連れてって治療してやるって言ったんだが。なんか、疑われて」 「……そりゃ、しょうがないんじゃないか」 顔は温和でも、こう暗くちゃそれも良く分からないだろうし。 体はこんな巨体に見えるし。 「なんだ。俺はな、親切で」 「あー、はいはい。分かったって」 適当に手を振って遮って、なんだよ、とぶつぶつと小声で文句を言うロイを放置し、ジャンは二人の横にかがみ込んだ。 男は、意識は一応あるらしい。女の方も怪我を負っているらしいが、良く分からない。 「あのさ、怪我、治療してやるから。何もしないからさ、だから、俺らと一緒に来てくれない?」 「ジャン、俺と言ったこと同じだ」 言って、そんなんじゃ女も引っかからないだろうな、と続けるロイに「あのなっ!」と怒鳴る。 「それは関係ないだろっ!」 「いや、そうでもないと思うぞ。何なら、女をひっかける方法の一つや二つ」 「あほ言え、この鈍感男がっ」 「何、誰が鈍感なんだ?」 「お前だお前っ!」 怒鳴って、はぁ、とため息を吐く。 一応、これでもロイに女が寄り付くのは知っている。知っているが、それにしても、ネリーのことは本当に気が付いていないのだろうか。 それとも、わざとか。 いや、今はそんなことはどうでもいい、と小さく首を振り、ジャンは再び二人の方に視線を戻した。 「で、どうする?」 聞くと、さっきの漫才が効いたのか、女は少し考えた後に血を流したままの男の事を見て、お願いします、と頭を下げた。 「了解。ロイ、男の方頼むから、さっさとしゃがめ」 「ああ」 ここでデュークだったら 「何でわしが男の相手せなあかんのや」 などと、変な訛で反論してくるのだろうが、ここは流石にロイ。嫌な顔一つせずに男を背負った。 ジャンは大丈夫か、と声を掛けながら女を支えて立ち上がり、ロイの後に続いて歩き始める。 いい奴らだと、そう思う。 どうにかこの街に流れ着いたものの、どこへ行くあてもなく、雨に濡れていた俺を誘い入れてくれた『鷹目』。 確かに、ある程度腕を見込んでのことだろうが、それでも、何の後ろ盾もない俺を引き取るなんて、馬鹿じゃないかと思った。 本当に、馬鹿だと思う。 そして、いい奴らだと思う。 だから、不安になる。 怖いんだ。彼らと同じように俺のせいで、『鷹目』がどうにかなってしまうんじゃないか。 何か、おかしなことが起こってしまうんじゃないかって。 でも、俺には自分から抜けるだけの勇気がなかった。 最初のうちは、それこそ彼らの事をなんとも思わなければいいと思った。 表向きは普通に付き合っていても、自分は、彼らとは一線を隔した所にいて。 何が起こっても動じる事がなければいい。そう思っていた。 けど、俺はそこまで器用じゃなかったんだ。 段々と皆を放って置けなくなって、このままじゃダメだ、と思うようになった。 このままじゃ、また同じ事をしてしまう。 そんな気がした。 だから。 「怪我人ー?」 ネリーが呆れた声を出し、ロイが背中から降ろした男を見て、続いて入ったジャンと女を見てため息を吐いた。 「ロイ、あんたどこまでお人よしなのさ? 薬だってタダじゃないんだよ」 「しかしなぁ。あのまま放ってもおけんだろ。なあ、ジャン」 「あ、まあ、なあ」 「げははは、やめとくんやな、ネリー。ロイの奴に、何言っても無駄や」 「なんだ、デューク。お前また一人で飲んでるのか」 俺も混ぜろ、とさっさと立ち去ろうとするロイを、ちょっと待て、とネリーが捕まえる。 「あんたは、先に治療室に運びな。ジャンはつき合わされたんだろ、休んでていいよ」 「ん、ああ」 「ネリー。俺も疲れ」 「知らないよ。あんたが連れてきたんだろ、薬代もあんたが払うんだ」 「あ、あの」 いつもの会話を繰り広げる二人に、おずおずと女が声を掛けた。 ん、と怒った顔のままネリーが振り向いて、女を見る。 「薬代は、今はお金はありませんけど、自分たちで払います。ですから」 「ああ、気にしないの。この人が好きでやったんだから。あんた達は黙って治療されなさい」 「けど」 「いいから。ちょっとローズさん、マリーさんっ! またロイが怪我人拾ってきたよっ」 「またかい?」 「そうだよ、まただよ」 「そんな、呆れた声出さんでもいいだろう」 いつもの漫才の風景に思わず苦笑しながら、デュークのところへ行って酒を注いでもらった。 くいっと酒を煽って、思う。 だから。今のうちに突き崩そう。 お互いが、まだそこまで、傷つく必要がないうちに。 それは、俺の我侭だけど。 でも。それでも。 同じ思いは、したくないんだ。 続 |
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