揺れるトキ(2)  



「あ、いた居た。リクっ」

 呼びかけられて、紙を降ろして視線を向こうに投げた。下から登ってきたマークが、よっと、軽く手を上げてこちらに挨拶してくる。

「……何、呼びに来た?」
「いや。言っても来ないだろ、お前は」
「当然」

 答えて、マークに手を貸してこちらまで引っ張ってやる。
 どうもどうも、とふざけて頭を下げる彼に苦笑して、再び屋根の上に腰を下ろした。

 マークは、この学校に入って結構早くに出来た友人だ。
 自分と同じく南側の出身である彼は、お坊ちゃんお嬢さんが多い学校の中で、かなりリクと近い位置にいるといえる。

 家は小さな貿易商の一つで、あまり力は持っていないそうだ。
 珍しいものを運んでくるのではなく、契約をしている何件かの店に頼まれたものを輸入してくるのが常。貿易商、というよりも運搬業、といってもいいかもしれない。

 ともかく、そんな商売で大して儲かるはずがない。
 この学校に出しているのも、文字と計算だけはできないと困るからだ。商売に差し障りがなければ、わざわざ学校にまで子供を出してこないだろう。

 マークも、それは良く分かっているようだった。
 数学と国語、それと外語だけは熱心にやっているのでテストの成績も真ん中か少し下ぐらい。
 しかし、他の授業に関しては、全くやる気がない。授業中はぼんやりとしているか眠っているかで、お前少しはやれよ、とリクに言われてもけろりとした顔で「だって、別にこれはいらないしな」というだけだ。
 むしろ、親からも許されているのだろうが、学校生活を楽しむことに力を注いでいる。
 何人かの友人たちと流行のボール遊びをしたり、どこやらの店に行って見たり、授業を抜け出してみたりと様々やっているのだ。
 リクも時々は参加しているが、成績が落ちて奨学金が取れなくなってはかなわないので、しょっちゅうではない。

「リク、まだ決まらないの?」
「……まあ、ね」

リクが手にしている紙を見て、マークが少し呆れた顔をしながら聞いてくるのに頷いて、ため息を吐く。

「何だよ。お前なんて、頭良いし、どこでもいけるだろうに。兄さんだって、好きにしろって言ってるんだろ?」
「それが困るんだってば」

 マークには、ある程度の話はしている。
 同じ南側の出身だと言うのもあるが、なんとなく、彼自身に親近感を感じていた事もあるのだろう。兄と血が繋がっていないことや、自分を養ってくれている事なども話せた。

「迷惑、かけたくないってか?」
「というより、役に立ちたい」

 少しも恩返しができないままでは、立つ瀬がないと思う。

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