揺れるトキ(3)  



「水臭いって言われんじゃねーの」
「かもね」

 的確な指摘に、思わず苦笑する。多分、そうだ。俺の兄はきっと、少し怒って、もしくはしょうがないなといった笑顔で、言うんだ。

 そんなの気にすんなって。俺は、リクが好きな道に行ってくれれば、それで嬉しいから。だから、何も気にしないで好きなの選べって。

 気を使ってくれているのか。
 それとも本音なのか。
 それが分からない。
 でも、どちらにしろ、罪悪感を感じるのは確かだった。このままだと、育ててくれた恩を何も返せないまま終わってしまう。
 そんな気がして、怖いのだ。

「っくぅ、お前、ほんっと贅沢な悩みだよなぁ」

 しみじみと、少しふざけて言ってきたマークに少し笑った。
 そうかな、と聞き返して彼の方を見ると、それに気付いたのだろう、

「ああ、贅沢も贅沢だよっ!」

 と大袈裟な身振りをつけて言って来た。

「俺なんて、進学も何もないんだぜ? これからは親父にくっついて修行の毎日。もう、僕様ちゃん辛くて泣きたくなっちゃう。リクちゃん、助けてぇ」
「ばぁか。毎日楽しみだって言い続けてた奴が何を言うんだよ」

 身をくねらせながら頬を押さえるマークを軽く叩きながら言うと、彼は直ぐに笑って答えた。
 そして、でもさ、と言葉を続ける。

「贅沢だって思うのは、本当だよ。お前は恵まれてるさ。兄さんの御蔭で」
「ああ、分かってる」
「だから、恩返ししたいんだよな」
「……」

 沈黙で答えると、何黙ってるんだよ、と小突かれた。

「もう、はっきり頷いちゃいなさいよ。だらしないわねぇ、この子は」
「って、誰だよ」
「全く、そんな子に育てた覚えはないわっ」
「育てられた覚えもねぇよ」
「うふふふ、そう恥ずかしがるなよ」
「だから誰だよ?」

 べしっと叩きながら言うと、マークはそれでようやく満足したのか、そういやさ、と話を進めた。

「ユフィの奴、医学行くらしいな」


前へ     次へ     トガビトメニューへ   小説メニューへ

SEO 無料レンタルサーバー ブログ SEO