揺れるトキ(8)  



 大体、自分のことを考えてないっていうならリクだって同じじゃないか。
 自分は大丈夫だと思っている人が危険、その言葉をそのままリクに返してやりたいが、言った所でまた言い負かされてしまう事は目に見えている。兄貴としては少し情けないような気もするが、まあ、リクが相手なら仕方がない。
 けど、それでも。
 やっぱり兄として心配するのは当然だと思うし、それに何より、リクに何かあったら困るじゃないか。
 別に自分のことを手伝ってくれなくたっていいし、口答えしても良いし、喧嘩だって俺は好きじゃないけど別に良いけど。
 けど、リクに何かあったらイヤだって、そう思う気持ちは汲んで欲しいと思う。
 いや、まあ、それはリクも同じことを考えてるかもしれないし、むしろ何かもっと色々考えてそうな気がするけど。でもそんなの言われなきゃ分からないし、言われても分からないかもしれないけど。
 だから、つまり、えっと。

「あー、なんか腹立ってきたっ!」
 思わず声に出して怒鳴ると、

「アホやな」
「馬鹿だよ」

 後から何か言われた。

「だってさっ!」
「せやから、怒鳴るなっちゅうねん」

 うるさいと頭を叩かれて、いてぇ、と頭を抱える。
 むくれた顔をして振り返り二人を見上げると、それで、と呆れた顔をしたジャンに聞かれた。

「今度は、何考えてたんだよ?」
「だってさ、やっぱりさ、俺よりもリクに護衛つけるべきなんだって」
「……またそれかよ」

 眉を顰めため息を吐かれ、なんだよ、と声を出すと、別に、と答えられた。
 後を歩いていたデュークが楽しそうにけらけらと笑い、

「せやから無駄なんやって」

 と言いながら、ナギの頭を押し潰すように撫でる。

「何回言ったところで、今更変わらんでぇ。一週間、リクの方も何もなかったんやし、もう一回護衛をつけようって話にはならへんやろ」
「だからー、何かあってからじゃ遅いんだってば」
「それは分かるんやけどな。せやけど、いつまで護衛を付けとくわけにもいかんやろ」
「そうだけどさぁ」
「杞憂やで、杞憂。誰が相手だかしらへんけど、こっちが『鷹目』だと知ってるなら、手ぇ出さん方が得策やろ」
「……きゆうって、何?」
「取り越し苦労ってことだよ」
「ナギ、つまりな、自分は心配しすぎや。そんなに心配せんでもええやろ」
「そうかもしんないけど、さぁ」

仕方なく答えながら、ふと、気が付いて小首を傾げる。

「あれ、もしやリクって今日から護衛なし?」
「そうやな。昨日で一週間やし」
「ってことは、帰って来るの遅いかもな」

 ぽそっと呟いたジャンの言葉に、驚いて思わずえっと声を上げた。それに気が付いたのか、だってさ、とジャンが言葉を続ける。

「リクの奴、わざわざ待ってくれているからって言って一週間ずっと、友達の誘い断って帰ってただろ。久々にそれもなくなったんだ、少しでも遊んで帰りたいんじゃないか?」

 確かに、そうかもしれない。
 一週間もの間、護衛の人を待たせちゃいけないと、わざわざ早く帰ってきていたのだ。だから、今日も早く帰ってきているもんだと思っていたが、そうじゃないかもしれない。
 というか、ジャンの言う通り帰って来るのが遅くなる可能性のほうが高い。
 それは、リクにちゃんと友達がいて、また一緒に過ごす事を楽しんでいるのだという証拠なのだからいいことなのだと思う。
 思うが。

「えーっ!」

 心に従って、不満の声を上げた。

「そんなの、つまんないっ!」
「しらへんわ、そんなの。ごちゃごちゃ言うとらんで、さっさと帰るでっ」

 寒くて敵わんわ、と続けるデュークに渋々頷き、少しむくれた顔をしながら二人が歩くのに従った。

 でも、それにしても。
 本当に、取り越し苦労なのだろうか。
 別にリクを信用していないわけじゃない。いつもなら放って置くし、これぐらいでわざわざ護衛なんて頼んでいたら、ホークスだって堪ったもんじゃないだろう。それは、分かっている。分かっているけど。
 何か、変な気分だった。


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