矛の誓2(1)  



手はずは、全て整った。

 これが僕らの、最初の仕事だ。父さんが犯した間違いを正し、じい様の居た『矛』の最盛期。あの輝かしい時代に戻す為の、第一歩。
 僕の側近であるディズが、皆の前に進み、両手を広げるようにしゃべりかけた。
 情報は揃った。
 人々も集めた。
 後は実行だ。やり遂げるのみだ。
 さあ始めよう、とディズが皆を見回す。
 今日がその日だ。
 時が来た。やっと、時が来たんだ。
 皆覚えているだろう、あの時代を。
 この『矛』が輝いていた時代。ここの最盛期を。
 さあ戻そう。あの時に戻ろうじゃないか。
 これが、第一歩。
 戦いだ、これは俺達の戦いなんだ。
 突き崩せ、この今を。
 突き通せ、俺達の弱さを。
 どうだい皆。
 俺達についてきてくれるか。クルトについて来てくれるか。
 これは戦争だ、戦いなんだ。
 俺達『矛』の、運命と、誇りと、そして俺らについてくれる全ての人の為の。

 彼が語りかけると、皆がおうと答え、僕の身体を熱気が打った。
 ここに居る、僕の側近は皆若く、血の気の多い奴らばかりだ。僕のことを良く理解し、そして父さんの間違いも理解してくれた。

 戦おうじゃないか。

 そういったのは僕の側近の一人で、このディズだった。
 じい様が亡くなった後に僕に話しかけてきた新参者ではあるが、その気合と誇りの高さを買って、僕の側近に迎え入れた。

 父さんの側近たちは言った。

 そんな得体の知れない奴ら、使うもんじゃない。旦那、若旦那。頼むよ、頼みますよ。あの人の、貴方の父さんが作ろうとした安定を崩さないでくれ。平和を崩さないでくれ。
 彼は分かっていたよ。私達が何を望んでいるのか。彼は、それを叶えようとしてくれたよ。この平和の中で、この『矛』がどれだけ力を取り戻したのか、信頼を手に入れたのか。
 分かってくれよ。分かって下さいよ。

 ああ、分かっていた。僕は分かっていたさ。

 腰抜けだった。みんな皆。父さんを支持していた人間は皆、腰抜けだった。
 『矛』は力を取り戻さなくてはいけない。そのためには、行動を起こす事が重要なのだ。時を動かす事が重要だったのだ。
 それなのに、彼らは。
 彼らが恐れていたのは、そのことだ。
 時が動く事。行動を起こす事。そして、また何かが変動する事。
 馬鹿なことだ。動かなくては何も変わらないのに。それは、理解しているはずなのに。

 だから僕らは、はじめる事にした。
 さあ、始めようではないか、諸君。
 あいつらに目に物見せてやる。
 さあ、始めようではないか。
 時は満ちた。全て整った。何も心配する事はない。

 盛り上がるディズと部下達を見ながら、僕は首を捻る。
 それなのに、そのはずなのに。
 どうしてだろう。
 母さんが僕に言ってくれた言葉が。
 何故父さんと結婚したのかと聞いた時に、母さんが答えてくれたその言葉が。
 今更。
 こんな、重要な時になって。
 僕は、気になって仕方がないのだ。
 あの時の言葉が、何だったのか。
 思い出したい、思い出せない。
 笑顔で言われた、あの時の言葉を。

 ねえ、母さん。
 あの時貴女は、何と言ったのですか。

呼びかけた僕の中で。
 母さんの幻影が、嬉しそうな笑みを見せた。


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