未来への道(5)  



 石畳の廊下に音が反響する為、何人入ってきたのかはわからない。どん、と何かを蹴る音が聞こえて、続いて直ぐ傍で聞こえた男の怒鳴り声――起きろ、この役立たずっ!――に、びくっと身をすくませた。扉の向こうでしばらく言い争うような声が聞こえたが、音が反響して良く分からない。
 しかし、それに紛れるように金属の触れ合う音がして、扉のノブが回されるのが見えた。
 余り使っていないのか、ぎぃっと鈍い音がして扉が開き、ランプの光が部屋の中に差し込む。目を瞬かせて、光を持つ男たち、三人か四人ほどいる彼らを見た。

 若い人間だ。

 『矛』がどういう組織になっているのかは知らないが、そういえば、ナギが「新しい元締めになってからは良く分からない」と言っていた。
 どういう経緯で元締めが新しくなったのかはわからない。しかし、その元締めが若いことは十分に考えられる。
 そして、その前に友好条約を結んでいた事を考え合わせれば、元締めが変わると同時に周囲の人間も一新させたか、少なくとも、前の元締めの時に条約に賛成していた人々は中心から押しのけたはずだ。

「気が付いたか」

 見た目からしても、声からしてもジャンと同じぐらいか。
 茶色掛かった金髪は少し天然のパーマが掛かっているようで、幾らかはねた髪が目立った。身長が高いわけではないが、しっかり鍛えているらしい体つきをしている。
 その隣にいる男はもう少し背が高く、もっと筋肉質のようだ。目つきが悪く、威嚇してきているかのような威圧感がある。
 他の男たちは、扉の向こうに隠れて見えない。

「お前、名前は」

 最初に見た男、どうやらリーダー格らしい男に聞かれて、リクは黙ってそいつの方に目をやった。
 答える気はない。隣の黒髪が強く睨みつけてくる視線を感じたが、そちらには視線をやらないようにして無視する。

「聞こえてるのか、名前はなんだよ」

 苛立ちが混じったようだが、再び沈黙で答えた。
 すると、リーダー格の男がくいと顎をしゃくったのを合図に、黒髪の男が歩いてきて、

「――っ」

 思いっきり、蹴り付けられた。勢いで体が倒れて、咳き込みながら身体を動かし、横向きになると、今度は髪の毛を掴まれ無理矢理に起こされる。
 目が合うとにやりと笑って見せた黒髪の男が、今度は腕を振り上げたところで、

「やめろよ、ディズ」

 とリーダー格の男が声を出した。それに、ちぇっと舌打ちし、黒髪……ディズが腕を下ろす。
 こいつは、相当の喧嘩好きか。

「分かったろう、リク君。質問には、正直に答えたほうがいい」

 男の言葉にディズが髪を離した。
 痛みで、少し頭がくらくらする。軽く頭を振り痛みを振り払うようにしてから、男の方を見ると、そこでようやく、彼が口を開いた。

「あいつは、何を考えている」

 ぐいとこちらに顔を近づけて、単刀直入に来た。
 単純。
 そんな単語が、ふっと頭の中に浮かぶ。

「……あいつって」
「分かってるだろう、ホークスだ」

 やはり単純だ。だが、逆にやり難い。
 考えて考えて自らで己の考えに絡め取られてしまうような人の方が、ある意味ではやりやすいのだ。こういう、単純すぎる人間は、明快な答えを求め過ぎる。

「何。何のこと」

 まずは、分からないフリ。
 男は軽く眉を顰め、分かっているだろう、ともう一度繰り返した。

「何故、友好条約などを結んだ。あいつは、何を考えている」
「知らない」

 即答すると、ディズに殴られた。倒れかけたところで胸倉を掴まれて、ふざけるな、と怒りを含ませた声で言われる。

「どうせ俺たちを潰したいんだろう。油断するのを狙っているんだろう。そうだろう、違うのか、あ、どうなんだっ?」

 少しだけ、眉を顰める。
 不自然だと思った。何か、少しだけ、歪んでいる。

「おい、ナに黙っているんだ、答えろよ、おいっ」

 再び殴られそうになって、ホークスは、とだけ声を上げると、ぴたりと腕が止まった。

「教えてくれないよ、自分の考えは。誰にも言わない。そういう人さ」

 あながち、嘘でもない。
 古参である人間も新参者と同等に扱われるので、『鷹目』では平等感が生まれる。それを維持する為にも、ホークスは自分の考えは基本的に誰にもしゃべらないようにしているのだ。
 それを行う時は、次の後継が決定した時だろうとは、確かデュークが以前に行っていた事だった。

「それは」

 何を言われたのか良く分からなかったらしいディズを放置して、男がふと、声を上げた。
そして、俺を見下ろして嘲るような笑みを浮かべる。
「お前が、違うからじゃないのか?」

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