未来への道(5)  



 何となく、小さい時の事を思い出した。

ナギに拾われて直ぐの頃で、他の人と話すことも余りなかった時。明かりのない家では夜になれば真っ暗で、周囲もあまり見えない状況だった。寒い季節がやって来て、二人で一緒に凍えながら眠っていた時期。
 ナギは、時々そこから抜け出しては、仕事をしに行く事があった。何をしていたのかは、知らない。向こうが言いたくないのなら俺も今更聞こうとも思わないし、それ以上に聞くこと自体がはばかられた。

 ともかく、そんな時。寒さでふっと目が覚めて手を伸ばしても誰もいなくて。捨てられたんじゃないか。そういう恐怖がこみ上げてきたのだ。
 また一人になる。また、皆は俺を残して行っちゃう。怖い。一人は、とても怖い。
 そう思いながら身体を起き上がらせて、兄ちゃん、と呼びかけるのだ。

 どこ。兄ちゃん、どこにいるの。

 泣きそうになるのを必死でこらえて、自分の声が闇に解けて溶えてしまうのを見て。蒲団から抜け出すと、毎回のように、家の外まで彷徨い出たのだ。

 捨てられるのが怖かった。
 誰も来てくれないんじゃないかと疑った。再び一人になるのが恐ろしかった。
 そのまま死んでしまうのではないかと、震えていた。

 でも、そうだ。

 正直、あの頃に俺を見捨てようとしなかった兄貴には未だに感心するし、感謝もする。仕事でくたくたに疲れて帰って来て、俺がいないのに気が付いたら、直ぐにもう一度外に出て俺を探してくれたのだ。
 そして、時には一時間以上も走り回って、俺を見つけては安心した顔を見せるのだった。

 良かった。大丈夫か、怪我とかしてないか? ごめんな、リク。

 怒る事はなかった。
 ただ、怖がらせてごめんな、と何度も何度も謝って来るのだ。

 それで、すごく申し訳ない気分になった。
 それでも、しばらくの間は何度もそれを繰り返していた。誰もいないと、闇に飲まれるような気がしていたのだ。
 直ぐにでも、助けて欲しかった。だから、その助けを求めて外に出て行くのだ。

本当に、不思議なぐらいナギは自分を助けようとしてくれる。
 俺を本当の兄弟みたいに扱って、少しでも嫌な思いをさせまいとしてくれる。
 だから、きっと今回も見捨てようとはしないだろう。他の人が何と言っても、俺を助けようとしてくれるだろう。それは、分かる。

 けど、それだけど。
 出来れば、誰にも来て欲しくない。
 頼むから、誰にも、特に兄貴には来て欲しくない。
 もし来てしまったら。そのせいで、他の人の迷惑になってしまったら。
 もう、闇は怖くない。一人も怖くない。
 そう思うから。そういうことにするから。だからこのまま、俺が闇に消えてしまえば良い。そうすれば、誰にも迷惑はかからない。

 あいつの、思い通りにもならない。
 兄貴にも、嫌な思いをさせなくてすむ。
 だから。
 あの時の俺の声みたいに。
 自分も、闇に溶けていってしまえば良いのに。

「……寒い」
 小さく呟いた声が、闇に溶けた。

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