愚者の思い(4)  



「遅いッ!」

 『鷹目』の一階。
 夕飯も終わり、ぎりぎりまでリクを待っていたナギであったが、

「さあ、さっさと食べるんだよ。あんたの分もまとめて洗っちまった方が楽だ」

 というローズの言葉に、仕方なく先に夕飯を食べた。
 それが、二時間ほど前のこと。いつもならば遅くてもこの一時間前には帰って来て、ローズに謝りながら夕飯をもらい食して、ナギとは違って自分で皿を運んで遅くなったのは自分だからと洗う所までやってしまうのだが、今日はまだ帰って来てすらいない。
 だから、いつまでも帰って来ないリクを待って、いつも夜は酒を飲んで遅くまでここにいるかそのまま眠ってしまうデュークやロイ、その他数名と一緒に一階に残っていたのだ。多分、周りの人は珍しく大人しい、とかなんとか思っていたのだろうが、流石に自分もこれが限界。

 どんとテーブルを叩きながら言うと、少し垂れた目で呆れたように、デュークがこちらを見た。飲んでいたビールのジョッキを置いて、なんやねん、と仕方が無さそうに聞いてくる。

「折角、人が気持ちよう酔っとるっちゅうに。皆、台無しや」
「知らないよそんなこと」

 手元に準備されていたマグカップを持って、既に温くなってしまった、少しだけアルコールの入ったジュースを煽る。

「だってさ、幾らなんでも遅いだろ!」
「リクか?」
「うん」

 時計を指差しながらじたばたと言うナギにロイが聞き返し、小さく頷いて答える。
 デュークの方は呆れた、と言った顔をして酒を注ぎなおし再び飲みだしてしまったのだが、一方でロイは、そうだなぁ、と同意するような声を出した。

「確かに、リクにしては遅いな」

 言われて、そうだろ、と勢い込んでナギが言うと、ロイは苦笑しながらも軽く頷く。

「あいつなら、ナギが騒ぎ出す前に帰ってくるな」
「……何か、納得できないんだけど」
「だが、事実だろ?」
「そうだけどさぁ」

 ぽふと机の上に伏せながら言って、そうだ、と言いながら即座に顔を上げる。

「迎えに行くっ!」
「行くって、どこに行くんだ」

 友達の家かもしれないだろ、とロイが続けて言うが、ナギは笑いながら大丈夫だよ、と答えただけだった。そして、振り返りながらジャンを見て、にやっと笑う。

「ジャン、お前も一緒に来いよなっ!」
「は、俺っ?」

 突然言われて思わず素っ頓狂な声を上げたジャンに、周りから行ってやれよ、というような声が幾つか上がった。
 それに対抗できず、わかった、と渋々頷いたのを確認して、ナギはそれじゃ、と飛ぶようにして椅子から立ち上がると二階へと駆け上がり準備をして外套をひっつかみ、再び下へと駆け下りてきた。

「ジャン、行くぞっ!」
「わかったよ」

 だから大声出すなよ、と続ける彼を引っ張って、ナギはさっさと『鷹目』から出た。そして、一度大通りへと出る。

「分かれて探すか? その方が早いだろうし」

 細い街灯の光しかない街を見回しながらジャンが言うと、いや、とナギが小さく首を振った。
 そして、大丈夫さ、と続ける。
「直ぐに見つかる」


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