愚者の思い(5)  



「……直ぐにって、どういう意味さ?」

 首を傾げて聞き返すジャンに笑って見せて、ナギはこっち、とジャンを引っ張った。大通りから再び細い路地へ入り、あまり光も入らなくなったところで、急に立ち止まり、ジャンの腕を引っ張った。
 な、と驚いた声を漏らしながら倒れかけたジャンの胸倉を掴んで、ごんと壁に押し付けて、短剣を首筋に突きつける。

「待ってたけど、言ってくれないみたいだしな。ジャン、さっさと吐けよ」

 言いながら右手に持った短剣を首元に近づけると、ジャンは逃れるように右手を動かそうとしながら、何がさ、と聞き返してきた。

「知ってるんだろ、リクの居場所。『矛』の本拠地でもいいさ。それだけでも良いから、言えよ」
「……なんで」

 聞きながら、右手の先でズボンのポケットに入っていたナイフに触れる。そっと、握りこんで、かすかに、右足をずらした。

「リクが、お前が『矛』の奴らと会ってるのを見てる。俺のところに来た奴らも、何か刺青彫ってたしな。今、不穏な動きをしてるのは奴らだけだろ。残りは勘」
「何でも勘だな、お前」
「どうも。でも、あながち間違っちゃないだろ?」
「まあ、なっ」

 答えながら右手に握ったナイフを振るうと、流石に反応は早い、直ぐに手を離して距離をとった。こちらに短剣を向けたまま、少し嫌そうに眉を顰める。
 裏切り者を相手に、どうしてそんな嫌そうな顔をするのか。

「何、やり合いたい訳?」
「別に。でも、裏切り者は放っておけないんじゃないか」

 言いながら、右手を引き上げる。ほとんど光の届かない道の中で、冷たい刃が少しだけ光ったように見えた。
 俺が望んでいるのは、多分それだろう。
 どこかでずっと思っていたんだ。
 俺は、いない方が良い。それなら、どうせなら、気の許せる人間に消された方が良いんじゃないか。少しでも、惜しんでくれる人に消された方が嬉しい。どうしようもないぐらいに、身勝手な思い。相手の気持ちを突き崩しておいて、自分の願望だけを通そうとしている。それが、今の自分の姿だ。

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