愚者の思い(6)  



 そんな俺の思いを他所に、ナギは今までの真剣な顔から一転、急にきょとんとした顔になると、「何でさ?」と首を傾げた。

「な、なんでってお前っ! 普通に考えたらそうだろっ?」
「そうかもしれないけどさぁ」
「けどさぁ、じゃないだろっ! 本格的な馬鹿かお前はっ!」

 思わず右手、は危険なので左手を振って突っ込むと、むーっと言いながらナギが唇を尖らせた。そして、馬鹿じゃねぇもん、と答えた後に、短剣をしまいながらこちらを見てくる。

「今ので確信した。やっぱ、ジャンは良い奴だ」

 にやっと笑って言われて、なんか、力が抜けた。
 急に、自分がやっていることがあほらしく感じられて、ため息を付きながらナイフをしまい、壁に背中を預ける。俯いてがしがしと頭をかいて少し迷ってから、

「北だよ」

 と答えた。

「北の区域に、『Dipper』って店あるだろ。宮廷料理の偽もん出してるところ。あそこの裏にある建物が、それさ」

 俯き加減にジャンが言うと、ナギはにやっと笑った。
 そして、分かった、と言いながらそれじゃあ、と直ぐに身を翻して走って行こうとして、

「そだそだ」

 言いながら、少し戻ってきた。

「ホークスに言っといて。流石に、一人じゃ辛いだろうし」
「……鬼かお前は」

 殺されるぞ、俺。
 思い切り顔を顰めながら言ったのが分かったのか、ナギは小さく笑った後に大丈夫さ、と少し真剣な顔をして言った。

「何だかんだ言って甘いよ、あの人は。だから、大丈夫。何なら、俺が許したとだけ言えば?」
「……いや。いいよそれは」

 微かな逡巡の後に答えると、そう、とナギが答えて

「じゃ、行って来るっ!」

 と元気に走り去ろうとした背中に、あのさ、と少しだけ声を張り上げた。

「あんまり、リクのこと焦らせるな。何か言っても、それが何であっても、認めてやれっ」

 自分の声が反響して聞こえた時に、既に小さくなっていたナギが、軽く右手を上げるようにして答えた。そして、直ぐにスピードを上げて走り去る。
 それを見送ってから、ジャンも急いで『鷹目』に向かった。

 前にリクの話を聞いたとき、なんとなく、昔の自分のことを思い出した。何をすれば良いのか分からなくて、でも誰も何の指針も出してくれなかった。だから、余計にどうすればいいのか分からなくなっていたのだ。
 だからなのか。俺は、本当に迷った。どうすれば良いのか分からなくて、自分の存在も見失いそうになっていたのだ。今でも同じ。路頭に迷った子供のように、暗い道の中でうろうろと、自分の家を探し回っている。
 多分、リクも同じなのだ。
 でも、少し違う。
 リクは、俺と違って絶対に自分を認めてくれる存在がいる。それは、一歩間違えれば彼自身の事を縛ってしまう、多分俺にとっては昔の家族のような存在だったのだろうが、それでもその存在は大きい。俺は、それをなくした。だから、帰る家が分からなくなった。今でも分からない。あそこに帰っても良いのか。
  それでも。

「……本当、ホークスに殺される気がするんだけどなぁ」

 考えを振り払うように首を振りながら呟き、『鷹目』の扉をくぐる。おう、どうだった、と聞いてくる人々……と言ってもまた数人は家に帰ってしまったらしく、残っているのはデューク、ロイと酔いつぶれた人が二人いるだけだが、に適当に答えて、真っ直ぐにホークスの部屋に向かった。

 正直、殺されるかもという思いは消えていないが、それでも、言わなければ。あの馬鹿のことだ、とりあえず突っ込んで行って、逃げられなくなってしまいそうな気がする。

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