愚者の輪舞(4)  



 どうにか間に合った短剣で削げたから良かったものの、それでも、傷は浅くは無い。身を沈めると同時に右肩を庇って短剣で刀を避け、横へと跳躍して逃れる。


 がくり、と右肩が下がった。右手に力が入らず、短剣の落ちる甲高い音が部屋に響く。


 傷口を抑える余裕は無い。にやりと余裕の笑みを浮かべたディズが、こちらに向かって接近してきたのだ。
 自らの血で滑り易くなってしまった床を一瞬だけ見て、右肩を庇うようにしながら後ろへと跳躍、左の短剣だけで刀を牽制。左右へと足を動かしながら、とにかく避ける。
 からかうようにして突き出された刀を右肩を下げながら横に逃れた所を、刀の背の部分で思いっきり、背中を叩かれた。前へとふらついて体勢が崩れてしまった所を、更に右足で脇腹を蹴り飛ばされる。
 そのまま吹き飛ばされて、受身を取る事が出来ずに左腕を下にして倒れこんだ。咳き込み、ひゅぅと音を出しながら深呼吸をして、どうにか膝を立てる。


 リクのすぐ目の前まで吹き飛ばしたのは、わざとなのか。
「……ふざけんな、よ」


 声が掠れているのを自覚しながらも、吐き出す息と共に毒づいて、左手を前に出す。血が、流れ過ぎだ。
 目を瞬いて歪む視界を直そうとするが、治る筈も無い。息が弾んでいる。


「兄貴、大丈夫……?」


 戸惑い、だろうか。リクが声を掛けて来て、手を触れようとしてくるのを振り払った。
 リクを無視してゆっくりと立ち上がり、まっすぐ、短剣をディズの方に向ける。


「手、出すなよ」


 低い声で言うが、後ろにいるリクの反応はわからない。
 手を、出させてたまるか。こういう仕事は俺だけで良い。自分だけで十分だ。リクが俺を助けたいと思っているのは知っている。それでも、分かっているけれど、リクにはこの世界には出来るだけ関わらせたく無いのだ。
 だから、俺がどうなっても、リクには手を出させたく無い。


「……行くぞ……っ」

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