メリクリク  

「な、ホントにいいの?」
「うん、何が?」

 兄に何を聞かれたのかが分からずに聞き返せば、兄は少し呆れたような表情で、だからさぁ、と言いながら手に持っていた箱を置いた。重かったらしい。軽く腕を回しながら、学校、と言葉を続ける。

「今日、あったんだろ」
「あー。いいよ、別に」

 言いながら大きなツリーの元にプレゼントを置き、シスターが行っていた飾りつけを手伝う。
 子供達はあちこちで走り回っているし、ナギも時々それに加わりながら準備を行っていた。

 孤児院『アナトーリー』で毎年行われるクリスマス会。
 去年リクは学校で行われるというクリスマス会の方に参加したものの、余りに違いを感じてしまい、妙に疲れただけだった。それに、俺が準備できるようなものは、数のうちに入らないようなもの。居るだけ、むなしくなるだけだ。
 だから今年は、ソレより前から『鷹目』で手伝っていた『アナトーリー』の方に参加することにしたのだ。

 ちらりと頭の隅に浮かんだ言葉があったにはあったが、それは黙殺した。

 毎年、このクリスマス会には『鷹目』から寄付と手伝いが行く。
 手伝いは、主にうちの若い人間を選び、ホークスのように傷がある人間は子供が怖がるので参加しない。むしろ、稼ぎ時であるこの時期、マトモな仕事とそうじゃない仕事の両方を、八割程の人手を割いてやることにしているのだ。ナギがこの時期に参加しないのは、間違いなくここの子供に懐かれているからだろう。
 ツリーの下に準備していたプレゼントは、あっというまに子供達に配られる。
 中身は高価なものでも、珍しいものでもない。簡単に作れる人形だったり、服だったり靴だったり、する。それでも、子供達は喜んでそれを受け取る。
 当然だ。
 彼らの多くは町に捨てられていた孤児だ。それらの有難味を知っている。だから喜べる。
 それを見れば、こちらだってうれしくなれるのだ。

「あら、これ高級なものよね」
「中々高かったんだ、父上に頼んで……」
「君、これはちょっとひどくない?」
「何言ってるの、これは東方から採れる珍しい宝石で……」

 そんな言葉が飛び交うところでは、肩身が狭い。
 去年なんかは途中で気分が悪くなって、そのまま出てきてしまった。

 彼らは何を知っているというのか。

 物がなくて、食べ物もなくて、寒くてひもじくて泣いていたような人の気持ちは、少なくとも分かるまい。
 物に溢れ食べ物に囲まれた生活を送っていた彼らには、一つのプレゼントの大切さや、それを送る人の思いまでキチンと受け取っているのか、疑わしいところがあると思う。
 だから今年は、こちらに出たのだけれど。

「ねえ、リク君。私、渡したいものあるから……」

 おずおずと告げてきた少女の様子を思い出し、微かにため息をつく。
 基本的に、あのパーティーではプレゼントをあげたい相手の名前を書き、ツリーの下にまとめておく。後に、皆が集まった時に、まとめてプレゼントを貰うことになるのだ。その場にいなければ、プレゼントを貰う事ができないのは当然のこと、彼女の危惧も当然かもしれない。
 しかし、それでも自分はこちらにきた。
 罪悪感がないとはいわないが、けど……、

 クリスマス会は、食事会を行って歌を歌って、お開きとなる。
 毎年同じ流れで、今年もそうだった。
 興奮する子供達を無理矢理に寝かしつけて、ナギと一所に帰り道に着く。夜も遅くなり、雪がちらついていた。吐息が白くなり、消えていく。
 それをぼんやり眺めながら歩いていると、リク、と声を掛けられた。
 ナギの方を振り返ると、彼はくいと顎を動かして道の先を指した。
 細い通路のかなり先に何とか見える、学校。明りはもう消えていて、パーティーはもうとっくに終わっているらしい事がわかる。
 何かと思って、じっと目を凝らして、ああ、と小さく声を洩らした。

「兄貴、先帰ってて」

 声を掛ければ、ナギは遅くなんなよー、などと返答してきた。
 俺を幾つだと思っているのか、と苦笑しながらも分かったと答えて、走り出す。

 校門の傍に佇んでいる彼女に、ユフィ、と声を掛けて駆け寄る。
 ぱっと顔を明るくして「リク君」と嬉しそうにやって来た彼女の、寒さに白くなった顔を見て、何やってるんだよ、と声を出した。

「なんでこんなところに居るのさ。風邪ひいたらどうするんだよっ」
「……ごめん」

 声を荒げればユフィは少ししょんぼりとした様子で返し、でも、と声を上げた。
 怒ったように目を吊り上げて、俺のことを見上げてくる。

「リク君、なかなか来てくれないから」
「……パーティーに出て無い時点で、こないってわかるでしょ」
「でも、どうしても、渡したかったから」

 これ、と言いながら差し出されたプレゼントを見て、どうも、と小さな声で答える。
 手渡されたプレゼントを受け取って、少しだけ苦笑した。
 これだけの為にずっと待っていたのか、と思い、心苦しい気分になる。

「ユフィ、」
「いいよ、準備してないことぐらい分かってるもん」

 笑いながら返されて、少し考え込む。
 何かないかと思って、思いついたものに我ながらそれは無いだろうと否定して、でもあげられるものはないからな、と考えて。
 ユフィがどうしたの、というように見上げてくるのを見て、再び小さく吐息をついた。

「今日だけだから」
「……何が?」
「他の人に言わないでね」
「うん?」
「他にできることないし、うん、明日何か買うってのも微妙だから」
「リク君?」

 不思議そうに首を捻るユフィの肩を引き寄せて、頬に唇を落とした。
 ありがと、と囁いて目を開けたら彼女が顔を真っ赤にしているのがわかって、釣られて赤くなる。

「あー、送るよ」

 手を差し出しながら言えばユフィは小さく頷いて、その手をとった。

 雪は降り続いていた。
 けれど、その寒さは特に、気にはならなかった。



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