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自分チョコ
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自分チョコ、というのを作るなんてそんな情け無いことが俺に限ってあるはずが無いと思っていたが、自分チョコのつもりではなくてもチョコを作らざる終えない状況になり、あまったチョコを貰って食べるつもりにもなれずに学校にまで持ってきたものの、当然それを広げることもできず友人にやるのもそれはそれでどうなのよ、と自重した。
となると、気が進まないながらも、このチョコは自分で食べる事になる。
自分チョコだ。
…………。
机に座り目の前にその袋を持ってきて、ため息を吐く。
練習だといって、可愛らしく包装された袋。
練習なんだからバラしていいだろ、と聞いたら
「ええっ? 折角うまくできたのにっ!?」
と衝撃を受けたといわんばかりの哀しそうな表情で言われて、あの馬鹿なユキ兄にも睨まれて、ケイ自身悪役になるのも嫌だったから、わかったよとそのまま持ってきた。
だから当然、バレンタインのチョコレートのそれである。誰かに貰ったみたいに見えるが、残念ながら、彼はまだ誰にも貰っていない。
どうしろっていうんだ。
口の中で呟いて、ケイは再びため息を吐いた。明るい茶髪をかき回して、まあ、食べるなら誰も居ない今だな、と思う。
家で食べようとすれば妹至上主義の兄に睨まれ(俺が作ったのに)、友人にあげるには女々しすぎる(勘違い去れても困る)。誰かに貰ったわけでも無いのに「貰ったんだ」と嘘を吐くのもイヤだし、そんなこと言っても情けなくなってくるだけだ。
大体、嘘だとばれた時に「実は自分で」というのも馬鹿みたいだし、結論を言えば、誰にもばれないように自分で食べるのが一番の解決策だろう。
そう思い、袋を手に乗せる。するっとピンクの可愛らしいリボンを解いたところで、がら、と扉が開いた。
「あ」
「……あ」
扉を開けて片手に可愛らしい箱を持って立っている少女が、ケイを見てぽかんと口を開けた。折角、今日は自分の教室が部活動で使われない日だったのに。何で来るか。
しかも、何でよりによって、この少女なのか。
少し釣りあがった目をした、黒い綺麗な髪をしている少女。
風紀委員と言うものはこの学校には無いが、それをやっている雰囲気だ。事実、彼女は生徒会に所属している。
「……」
黙って、少女が持っている小さな箱に目を移す。
誰かにあげるつもりなのだろうか。生真面目で浮いた噂のない彼女には不釣合いなものにも見えたが、一応女の子だし、おかしくは無い。そう思ってみていると、少女は視線に気が付いたのか、慌ててそれを後に回した。
そして、キッと、俺の髪とか銀のネックレスとかを見るときの目をして、こちらを睨みつけてくる。
「別に、あんたに私に来たわけじゃないわよ」
「……んなこと思ってねぇって」
呆れながら答えて、にやりと笑う。
「中村にでもやるのか」
「はあ? 何言ってるの」
聞けば、本気で馬鹿らしいという表情を作って答えられた。
ばっかじゃないの、と声にも出される。
「何で、私が」
「仲いいじゃんか」
「仕事上よ」
言われて、ふうんと答える。
違うのか。優等生のあいつなら、固い者同士、似合っていると思ったのだが。
そう考えながら、じゃあ、と言葉を続ける。
「机にでも入れておくのか? 外向いててやるから、入れれば」
言えば、違うわよ、と即答された。
きょとんとして彼女を見返すと、少女はすたすたと教室の中にはいってきて、ちょっと迷った後にケイの直ぐ近くの椅子を引いて座った。膝の上に箱を置いて、机に座るこちらを見上げて、かすかに笑う。
「自分で食べるの」
「フラれたのか」
「違うっ」
本気で怒ったようにいう少女に笑えば、彼女はむっとした表情で、あんたは、と言葉を続けてきた。ん、と声を上げる。
「その可愛いの。彼女?」
「……あー、いや」
答えて、頬をかく。
「誰かにもらったの?」
「それも、違う」
苦笑しながら答えれば、少女は軽く首を傾げた。
いつもいつも突っかかってくる少女の様子とは余りにかけ離れていて、少し、頬を緩める。
「俺が作ったの」
自分のことを指差しながら言えば、彼女はぽかんと口をあけた。
はあ? と変な声を上げる少女に、だから、と言葉を続ける。
「自分で作ったんだよ」
「……モテナイから?」
「失礼だな、お前」
思わず小さな声で呟けば、そう? と不思議そうに聞き返されて、ため息を吐く。
わざと聞いたのではないと分かるから文句を言うわけにも行かず、でも本気でそう思われているのならばそれはそれで淋しい。
「妹が、彼氏にチョコやるっつって。それはいいんだけど料理できないからさ、代わりに作ってやったの。その余り」
言えば、少女はかすかに眉を顰めた。
「ふぅん?」
「疑ってるな」
「だって、料理できるように見えないし」
正直に答える少女に、あのなぁ、と声を上げた。
「俺、ケーキ屋でバイトしてんだぞ」
「バイト禁止でしょっ!?」
怒り、沈黙して、
「ケーキ屋?」
聞き返された。苦笑しながらも、そうだよ、と返答する。
「接客じゃなくて、裏で。そこの人に色々教えてもらってんだ」
ちょっと自慢げに言えば、少女は目をまるくして「へぇ」と声を上げた。
「じゃあ、上手なんだ」
「まあ、それなりにはな。何なら、喰ってみる?」
言いながらチョコを差し出せば、少女は少し躊躇した後にソレに手を出した。
小さな口にそれを放り込み、驚いたように大きな瞳を瞬かせる。
「おいしい」
「当然」
気分良く答えれば、ねえ、と少女が俺の袖を引っ張った。
「これ、私に頂戴。こっちあげるから」
突然の提案に、思わず目を瞬かせる。そして、差し出された箱の中身を見て、
「お前が作った奴?」
と聞けば、違うわよ、と当然のように否定された。
「駅前のお店で買ったの。結構高かったから、おいしいと思うわ」
「それと、これを交換すんのか?」
「いやなの?」
「……俺は、いいけど」
戸惑いながらそう答えれば、少女はだったら、と言いながら箱を俺の手に持たせて、袋の方を取って行ってしまった。
それでいいのか、と思いながら少女からもらったチョコを口に放り込んで、小さく唸る。
本当にいい奴じゃないか。高級品だろ、これ。
「おいしい?」
「最高」
「ならよかった」
笑顔で返されて、おう、と小さな声で答える。
こいつって、こんな奴だったんだ、と思う。この少女と、初めてしゃべったような気がした。二人して、何故か時々少女にチョコを奪われながらも並んで食べるのが、妙に楽しいと思った。
「ね、来年も作ってよ。私も何かあげるから」
食べ終わった少女にすごく楽しそうな表情で言われ
「了解」
と笑いながら答えた。
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