チョコレート・前  

 まだ少し寒い冬空の下、黒い髪の少女が元気よく走っていた。流行の長めのマフラーを巻いて、大きめのコートを足に纏わりつかせながら走っていた。公園の中まで入って、息を切らせながら周りを見る。暇そうに欠伸をしている男の子を見つけて、ぱあっと顔を輝かせた。再び走り出して彼の所まで行き、にこっと笑う。
「はいっ!!」
 そう言って元気よく差し出したものを見て、彼は眉をしかめた。そして、不思議そうな顔をしたまま彼女を見る。
「なあ、バレンタイン……だよな?」
「うん。そうだよ」
 やはりにこにこと答える彼女に、彼はかなり複雑そうな顔をした。
「じゃあさ、なんで花束なのさ。しかも、これ……造花だし」
「…………だめ?」
 泣きそうな顔で見上げられて、彼は視線をそらした。
「別に、いやって訳じゃないけどさ……」
 ぼそぼそと呟く。すると彼女は嬉しそうに笑ってからその花を押し付けた。とりあえず受け取る。やはり、造花らしい少しがさがさとした肌触りだ。受けとってからも、彼は納得がいかないと言った顔で彼女を見た。
「ってか、チョコは?」
 聞かれて、彼女は少々困った顔をした。
「なんかね、ばあって黒いけむりが出て焦げて消えちゃったの。だからね、これで我慢して?」
 笑顔で言われて、彼は小さくため息をつきながらも「わかったよ……」と答えた。それから、一言つけたす。
「いい加減、それぐらい作れるようになれよな……」



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