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カラオケツアー
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どこの町にでもある小さなカラオケボックス。あまり新しくないのか、壁には少しだけ灰色に染まっているようなところもある、んな一部屋だった。そこの部屋には合計四人の人がかれこれ三時間も入り浸っていた。
女子一人に男子二人。最初合コンかとも思われたのだが、同じような制服を着ているため学校同士の友達らしい。その学校には、供だけでカラオケなどに言ってはいけないなどと入っていないのだろうか、それとも、ただの子供の反抗か。
店員には、どうでも良かったが。
「これ、誰の曲ー?」
「はーい、私歌うーっ!」
元気のいい声とともに、マイクが手渡される。
一体何曲目になるか知らないが、彼女と友達の男子一人はこのカラオケボックスにある歌を全て歌い尽くすつもりなのだろう。黒く長い髪を持つ彼女が、『歌い尽くしツアーっ』などといって張り切っていたのだ。
そう思って、気乗りしないのに付いてきてしまった彼はため息をついた。
一体、いつ帰れるんだ。
「ねー、歌わないの?早くしないと、全部歌えないよ、今日中に」
先ほどまで歌っていた彼女……そういえば、彼女と付き合い始めたのは結構前だった気がするが……に言われて、彼は呆れた顔をした。
「歌うのは俺の柄じゃない。っつーか、きり無いだろ、歌いつくすって」
「そうかもしんないけど、楽しけりゃいいんじゃないか?」
彼の言葉に答えたのは、友達の茶髪君。歌う方は休憩らしい。
卒業してすぐにこいつは、黒髪を染めた。
「俺は楽しくない」
こういう場所は、自分にあわない。むすっとして言い返してやると、感傷を受けやすい彼女は悲しそうな顔をして彼のほうを見た。
「え、楽しくないの……?」
感情の起伏が激しい。彼女は、しゅんと萎れた花のようだった。
「いや、楽しい、楽しいって」
たったこれだけで慌てている彼を見て、茶髪君は意地悪っぽく笑った。
一瞬殴ってやろうとも思ったのだが彼女の前なので自制しておく。
後で見てろよ、と、彼は心の中で呟いた。
「じゃあ、歌って?」
「………………は?」
突然の彼女の言葉に、彼は驚いて聞き返した。後ろで、茶髪君が思いっきりふきだしてげらげらと笑い始めた。
「ねー、歌ってよぉ」
ねーねーと言ってくる彼女に悪意は無い。というか、そう信じていたい。
更にしばらく揺すられて、彼はわかったよっと立ち上がった。
「ただし、お前も来いよ?」
苦し紛れといった感じで彼が言うと、彼女はしばらくキョトンとしたあと、元気よく
「うんっ」
と頷いた。
彼女に悪気は無い……はずだ。
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