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喫 茶 店
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なんで。どうして。
そんな風に思いながら、彼は目の前に置かれたあげたパンの上にソフトクリーム、更にその上に蜂蜜をかけた代物を眺めた。
パンの熱でソフトクリームがゆっくりと溶けていき、皿の上に広がっていく。また、その甘い液体もパンの生地に染み込んでいくわけだ。
いや、違う。そんなことは別に良いのだが。
これを自分が食べるのか、と思うと少し、いやだった。
「ねえねえ、あそこの喫茶店、入ってみようよ」
そういったのは当然の如く彼女で、コーヒー専門店だったこともあって彼は快く承諾したのだ。夕飯も近いし、そこで何か食べて、軽く腹を満たすのもいいと思った。
学生にとっては少し不親切な値段に迷ったものの、実際ここの喫茶店の飲み物は一品らしく、何度かテレビに出ていた事もあった。
だから、彼女と飲み物食べ物双方を半分ずつにして、そうすれば千円以内に納まるなと言うと、彼女は快く(というか多分、そんなこと全く気にしていないだけだろうが)承諾した。
しばらくはご注文が決まらないお客よろしく水だけで済まして、その後紅茶を一杯頼んだ。
そして、今度はその紅茶だけでしばらく(実は結構長かったりするのだが)過ごした。
彼女と話して、というか彼女の話を聞いたあと、彼はそうだ、と言ってメニューを取り出した。彼女はそれを見てきょとんとした後、彼の事を見上げる。
「そろそろ腹減ったんじゃないか? 夕飯だって食べてないし」
「うん。じゃあ、このさくさくっぽいのにしない?」
「いや、サラダはさくさくって言わないと思うけど」
「じゃあ、このしゃきしゃきっと」
「今日カキ氷はちょっと寒いが」
「うーん、じゃあにょろっと」
「グラタンは、高いなあ……。っていうかにょろって何」
「ばぐっと」
「パンか……大きさの割りにやっぱり高い」
「じゃあ、このくしゃって感じのは?」
そう言って彼女が指したのが。
「……なあ、お前わざとやってる?」
それだったわけだ。
「うん?」
甘いのが嫌いなわけじゃない。でもこれだけ沢山あると、幾ら彼女の頼みでも、少し辟易する。
「ごめんね、そんなにイヤだった?」
「や、そういうわけじゃないけど」
ちょっと辛い、という言葉は飲み込んだ。
正直、彼女が作る謎料理に比べればよっぽどマシではあったが、そんなことは絶対に口に出せないしださない。怒りはしないだろうけれど。
思っていたより、あれ半分は辛かった。
甘いのを食べ過ぎると彼は酔った様な気分になってしまうのだが、彼女には言っていない。そこまで大量に食べる事になるとは、全く思っていなかったからだ。
いやまあ、そんなことは今はどうでもいい。
「そろそろ、出ようか」
言いながら、彼は立ち上がった。
いい加減、店員が向けてくる視線が痛くなってきたのだ。それを知ってか知らずか、彼女はうん、と元気良く頷いて、ひょこりと立ち上がった。彼が金を払って、外に出る。
外に出ると彼女が半額払うと何度も訴えてきたので、半額よりも少な目の金額を言ってあっさりと騙した。
「よかったねえ、あそこ。また来よう」
そう言って楽しげに笑う彼女にそうだな、と頷きながら、しばらくは来ないようにしよう、とちょっとだけ心に誓う。
二人で合計二品。
たむろった時間、三時間ほど。
しばらく、睨まれる気がした。
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