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ハロウィーン in 2006
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『トリック・おあ・トリートっ!!』
玄関を開けると直ぐに、準備していたのか何なのか、魔女の格好をした彼女と変な耳(ネコ耳?)をつけた妹のサチが、彼に向かってそんな言葉を放った。驚いて一瞬固まり、しばらくの間交互に二人を見詰めて。
「……ぇと」
どうにか、少しだけ声を出した。
そういえば、部活ですっかり忘れていたが、今日はハロウィーンだ。しかも、昨日は何故かサチに
「明日は早く帰って来るんだよっ!」
とか念を押されていたような気がする。
「……そんな事言われても、部活の時間は変えられないし」
「知ってるよ。でも、出来るだけ早く帰ってきてねっ! そうしないとお姉ちゃんに言いつけちゃうからっ!」
何をだ。
頭の中でだけ突っ込んで、口には出さず、彼は手を振って家を出た。
サチと彼女の仲が良いのは別に構わないのだが、妙なところで気が合うらしい。彼氏であるはずの彼を置いて、しょっちゅう二人で遊ぶ事もあるようだ。
だから、サチが先ほどのような言葉を言ったとしても不思議はない。
ないのだが、ちょっと複雑。
「ほら、お兄ちゃん、トリックおあトリートだよ。どっちが良い?」
「……どっちもヤダな」
「だめだよー、二者択一だよ。トリックかトリートだからね」
楽しげに言う彼女にへいへい、と適当に返事をして奥に入り。
「……」
飾りつけされたリビングとこちらを睨みつけてくる黒髪男と苦笑するかのような顔をしている茶髪男をみて、もう一度部活に行きたくなった。
「……何やってるんすか」
とりあえず自分の部屋に荷物を置いてきてから彼ら、彼女の上の兄であるユキ兄に聞……こうとして睨まれたので、もう一人の兄であるケイ兄に聞いてみた。
「いや、悪いね。今兄貴、機嫌悪いみたいで」
「や、別に良いんですけど」
というか、俺が居る限り機嫌よくはならないだろうに。
そう思い苦笑してから、それで、ともう一度聞いてみると、楽しそうに何か菓子を作っていたケイ兄は「うん」と頷いて答えてくれた。
「ハロウィーンパーティーって奴だね」
「いや、それは分かるんすけど」
「君の妹さんが、家、使って良いよって」
「…………。……サチさん?」
思わず振り返りながら聞くと、彼女と談笑をしていたサチはてへへ、と笑って見せた。
「ほらー、お兄ちゃんもビックリって好きでしょ」
「いや全然。っていうか、そういうのはこっちにも話通せよ」
「だって、そしたら絶対イヤだって言うじゃん」
「当然だ」
いいながらぐいっとサチの頭を押さえつけると、お兄ちゃんの馬鹿っと何時になく泣きそうな声を出された。
いつもなら全力で反抗して叩きまくってくるにも関わらず、だ。
どうした、と思った瞬間に、すぐその理由が分かった。
サチの隣に座っていた彼女にくっと袖口を引っ張られて、
「だめだよー、乱暴は」
「……」
「ね。ダメだよ?」
「……へぃへぃ」
ため息を付きつつ手を離すと、サチにふっと笑われた。
やはりこいつ、確信犯か。どうせ彼女が帰ったら
「ふふふふ、ほれた弱みってやつですねぇ、ア・ニ・キ」
とか何とか言ってくるに決まっているのだ。
彼女の前では、もっと純粋でお茶目な(?)妹役を演じているらしく、余計に生意気だ。
「……全く、婦女子に暴力を振るうとは、人間の風上にも置けない奴だね、君は。一体どうやってこの子を誑かしたんだか。というか、いい加減目を覚まして欲しいな、ついでにサチちゃんもこの人と縁を切るのが良いと思うんだけどさ……」
これは、ユキ兄の独り言。
彼と同じ空間に居ると、いつもこんな感じだ。この間彼女に
「家ではどんな人なのさ?」
と聞いてみたところ、妹にとってはかなり優しいというか甘やかしている兄だということが判明した。いや、まあ、何となく予想はついていたんだけど。
「何言ってるの、ユキ兄。変なの」
不思議そうに小首を傾げる彼女に苦笑して、ふと、気がつく。
彼女は、魔女。
サチは、ネコ。
ユキ兄は……これはゾンビだろうか。適当に包帯が巻きつけられている。
そして、ケイ兄はヴァンパイア。
実際はそうでもないらしいが、見た目は軽い雰囲気のケイ兄だから、なんとなくおちゃらけたヴァンパイアに見える。
「あ、気がついたー?」
ふと、視線があった彼女が、にこっと笑って聞いてきた。
いや、と否定する前にあのねあのね、と腕にくっついて来ながら話し始める。頼むからユキ兄の方の前でそれはやめて欲しい。
寿命が縮むから……とはもちろん口に出してはいえない。
「ちゃんと、全員分の仮装、準備したんだよ」
「……ってことは、俺もか?」
とてつもなくイヤなんだが。
「うん、そうだよっ!」
嬉しそうに言われて、勘弁してくれ、と思う。
腕をすり抜けて逃げようとしたら、もう反対側をサチに掴まれ。
「ふん、僕もやらされているんだ。君が逃げれると思っているのかい、えぇ?」
黒縁眼鏡の学者風ゾンビが、妙に爽やかな笑顔でがしっと彼の肩を掴んだ。
「……いや、ちょい」
「大丈夫だよ、普通のなの選んだから」
「お前の普通は当てにならない」
「ふ、何かい君。僕に何か言いたい事でもあるのかい? ちなみに選んだのは僕だよ?」
……何故。
流石にゾンビに突っ込む気にはなれなくて。とりあえず脱出を試みてみたところ。
「あー、ちょいまち」
天の助けか。
お菓子作りの天才ヴァンパイア事、ケイ兄が口を挟んできた。
彼女とサチがきょとん、とした顔を作り。ゾンビの目に軽く殺気がこもる。
というかこの兄弟、どうして見た目と中身が正反対なんだ。
「仮装は後で。先に、こっちを手伝ってくれ」
言いながら指差すのは、広げられたお菓子の本。
まだ、つくり途中のものが多いらしい。
「……え、俺だけ?」
「いや、他に頼めないし」
「……サチとか」
「最初やってもらったんだけどさぁ。結構うっかり屋さんなんだね」
「えへへー、ごめんなさーい」
「ううん、気にしないで」
「っていうか、何をしたんだお前」
「でまあ、妹には頼めるはずもなく」
「なんでー、私、ちゃんと作れるよ?」
「……まあ、わざわざ腹壊したくはないし」
「ひどいっ!」
「兄貴は兄貴で、こういうの苦手だしね」
「僕の専門ではないよ。知っているだろう、僕は知的緻密な計算と戦略を得意とする人間であって……」
「……だから、俺になると?」
「そういうこと。おなか壊したくないなら、俺の手伝いしてよ。君が手伝ってくれないと、他の人になっちゃうし」
言われて、周囲を見る。
彼女は、論外。
サチは……結構料理は出来るはずなのだが、そういえばこいつがお菓子を作っているところは見たことがない。
そしてユキ兄は、なんかもういいや、触れないで置こう。
「……了解っす」
答えて。
渡されたエプロンをつけてお菓子作りを手伝う事になった。
イヤでも多分、変なの食わされないだけマシだ。
「それにしても君、本当になんでもそつなくこなすね……」
という感心半分、呆れ半分のケイ兄の言葉と、
「すごぉい」
という彼女の言葉と
「さすが兄上。やりますなぁ」
というふざけまくったサチの言葉を聞いて。
彼は、深々とため息を付いた。
……。
「ところでだな」
ふと、出来上がったパイをぱくつきながら、ユキ兄が犬耳を付けられた彼に向かって言う。
ちなみに、犬耳と猫耳の違いがわからん、という突っ込みは無視された。
「君、もてるだろうに、なんでまた妹に惚れたんだ? どう考えても分からないんだが」
聞かれて、
「……俺が聞きたい」
と返すことも出来ず、とりあえずため息を付いたのだった。
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