お返し  

 自分の彼女がバレンタインにチョコを、まともに普通の人間が食べて『おいしい』と覚えるチョコを持ってきただけでココまで感動する事の出来る彼氏も、自分だけだろう。


 先月のバレンタイン。
 彼女が何度目かに持ってきたチョコは、というかチョコを持ってきたの自体がまず珍しい現象なのだが、まともだった。
 いやもう、普通のチョコだったのだ。
 寧ろ、あまり甘いものが好きではない彼に合わせた、少し渋めのおいしいチョコ。


 そう、おいしかったのである。


 いつも包装だけは何故か綺麗な彼女の箱に、ようやく中身が伴ってきた、ともいえる。しかし、今までのバレンタインと言えば、何故か焦げていたり、花束だったり、良く分からない物体だったりしたのだ。感動しなかったらどうかしてる。


 事実、彼だけではなく、彼の妹であるサチも……というか寧ろサチの方が感動していた。


「す、すごいじゃんっ! とうとうチョコもらえたんだっ」


 言いながら、彼が恐ろしくて聞けなかった「手作り?」という言葉を躊躇いなく発し、


「そうだよ、手作りーっ」


 という返事をもらったのである。


 彼女の手作りチョコ。初。


 チョコを溶かすだけで別の物体を作っていた彼女が、このチョコを。
 感動して、妹のサチに言われて、前にあげたホワイトデーのチョコよりも(当たり前だが)イイ値段の、今度はネックレスなんぞを用意してみた。
 結構前に、彼女が欲しそうにしていた奴である。


 そして、やるよ、と差し出した彼のプレゼントに、彼女は前にどっかでやったことがある、不思議そうな顔をして包みを受け取った。


「これ、なぁに?」


 なんというかもう、完璧にデジャブというか、やったな、これ。


「何って、プレゼント。ホワイトデーのお返し」


 言うと、彼女は……首を傾げた。
 何故。


「それじゃあ、私、受け取れないよぉ」
「……なんでだよ?」
「だってさ、あのチョコ」


 なんとなく、嫌な予感はしていたが。


「ケイ兄が作ったんだもん」


 やっぱりそのオチかよ、と思った。



「え、あ、あれ、なんでそんな落ち込んじゃうの? えー、ごめんね、あのね、ごめんねってあの、謝っといてって言われたしね、えっとぉ……」


 なにやら突然落ち込んだ彼氏におろおろしながら謝ると、いや、俺が悪い、俺が悪い、と自己暗示(?)をかけるようにぶつぶつと呟きだした。


「うん、俺が悪かった……ような気がする」
「う、うん?」


 妙にはっきりした声に、思わず聞き返す。


「そうだよな、よく考えなくてもこいつだもんな。何年付き合ってるんだよ俺、よく考えろよ。そんな去年までチョコを溶かすことすら出来なかった人間が、突然こんなうまいモンを作れるようになるかっていうと明らかに無理だよな、物理的に。っていうかコレのどこが物理的なのかってそんなことはどうでもいい。それよりも、そうだよ。これぐらい想像ついたよな、そうだよな俺っていうか予想の範疇って奴だよな」
「えっと?」

 彼らしくない長台詞。
 首を傾げて顔を覗き込もうとしたところで、ようやく彼が、頭を上げた。
 そして、ぽん、と彼女の肩を叩き


「そういうわけで、気にするな」
「はぁ」


 曖昧に返事を返す。
 立ち上がった彼が小さく息をつき、じゃあ、今度別のお礼を準備するか、と小さく呟いて。


 そういえば、もらったチョコは甘くなかったしなぁ、とため息をついた。



今回の話は、この拍手ネタからの続きでした


「ねぇっ! けーにいっ!」
「んー?」
「もう直ぐ何の日でしょーかっ!」
「バレンタイン」
「その通りっ!」
「通称、お前の彼氏が哀れな日」
「そ、そんなことないもんっ!」


「何でだよ。またおまえ作るんだろ?」
「違うよーだ」
「は? じゃあ、買うのか? それはそれで……」
「それも違いまーすっ!」
「じゃあ、何」
「ケイ兄が作りますっ!」
「それもどうよ。」


「ねぇっ! けーにいっ!」
「んー?」
「チョコね、喜んでくれたよーっ」
「そうか」
「うん、ようやくチョコを溶かして固めることができるようになったのかって」
「…………え」


「なあ、今度会った時に」
「何ー?」
「謝っといてくれ、な」
「……(きょとん)?」



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