舞い戻る時    

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 ふっと、背中に重みがかかった気がして、トオルは顔を上げた。
 いつの間にか眠ってしまったらしく、目の前に置いてあった紅茶は冷め切り、画面は既に黒く切り替わっていた。


「――ごめん、起こしちゃった?」


 柔らかい声が頭上から降りかかり、彼は慌てたようにそちらを振り返った。
 生前の彼女と同じ柔らかな笑顔で、日の光を反射するかのように小さく光る黒目が彼を覗き込んでいる。一瞬夢の続きかとも思ったが、ぼんやりと動かない頭を無理矢理に動かして、落ちかけていた肩の毛布に手を触れてからようやく、これが現実なのだと確信できた。
 ミカ、と小さな声で呟くと、『彼女』は不思議そうな顔で何、と聞き返してきた。
 毛布を手放し、赤みの差さした暖かい頬に手を伸ばす。そっと触れて、確認するかのようにその長い髪を指に絡ませると、『彼女』は小さく笑いながら、どうしたの、と聞いてきた。
 今にも震え出しそうな彼の手に優しく触れて、泣きそうな顔してるよ、と言ってくる。


 本物だ、と思った。


 とうとう『彼女』を取り戻したのだ、生き返ったのだと思った。
 その暖かい手を握り、もう一方の手をもう一度『彼女』の頬に触れさせて、お帰り、と小さく震える声で、どうにか呟いた。


「お帰り……ミカ――」


 ただいま、と微笑まれた瞬間、今にも泣きそうなほどに彼の顔が歪んだ。

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