想いの時   

 人間って、何で出来ているのかな?

 彼女のその質問に対し、彼はそうだな、と少しだけ迷ってから、分からない何かだ、と答えた。
 不思議そうな顔をする彼女を見て微笑みながら、誰にも作れないし、何も代わりにはならない、誰にも解明できないし、してはいけない何かによって出来ているんだと、そう言った。
 その返答を聞いて少しだけ驚いたかのように目を瞬かせて、彼女はそうだね、と笑って答えたのだ。

 そう答えた事を、思い出した。

 どうして、と思う。
 どうして、今なのか。
 『彼女』を作る前に、せめて完成する前に思い出していたならば、このような思いをさせなくても済んだだろうに。
 どうしてこういう時に限ってと、そう思わずには居られなかった。

 そして彼は、今日のように柔らかで暖かい木漏れ日が彼女を照らしてくれたあの時を思い、小さくため息をついた。
 手を離して、手紙を両手で包み込むようにする。頭を下げて目を閉じ、祈るようにして、思う。

 もうしばらくしたら、町へ下りるから。
 ナツヤに謝って、君の元に花を捧げるから。

 だから、だから――。

 だからどうか、もう少しの間だけ、愛しい君の事を思わせてください。


 僕が心の底から愛した、唯一の人のことを。



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