嘗ての姿   

 中に入ると、カボチャやらなんやらの飾り付けが部屋一杯にされていて、正直驚いた。


 今までトオルが居た所でも行事がなかったわけではないが、余り社交的ではない彼の事、それに参加したのは子供時代だけだ。大人になった一人暮らしをする彼のマンションに、子供がやってくることもなかったし。


「トオルー? 来たならこっち来てよー」
「あ、はいはいっ」


 ミカに呼ばれて、慌てて上着を脱ぎ荷物を置いて、キッチンの方へと行った。既にやって来ていたナツヤが所在無さ気に座っており、トオルと目が合うと、よっと手を上げてみせる。


「……何やってるの?」


 暇そうだね、と言外に含ませて言うと、ナツヤはうるさいな、と眉を顰めた。


「ナツヤは役に立たないの。トオル、このパイ作れる?」
 何か料理を作りながらミカが差し出してきたお菓子本を見て、ああ、と小さく呟く。


「まぁ、うん、これぐらいなら」
「じゃあ、それよろしく」


「……はぃ?」


 聞き返しながらナツヤを見ると、彼は苦笑しながら軽く肩をすくめて見せた。
どういう意味だ、それは。


「だって、子供達が来る前にお菓子作らなきゃ配れないじゃない」
「えっと。パイは配り難いんじゃないかな」
「……突っ込みどころはそこか?」
「大丈夫、これはうちで食べるから」
「あ、そうなんだ」
「納得かよ。っていうかミカ、やっぱコレは作りすぎじゃね?」
「何よ大食漢」
「俺はいたって普通の量だと思うが」
「え、そうなの?」
「そうなのって……トオルはどっちの味方だ」
「いや、どっちも何も」
「トオルは私の味方。はい、さっさとパイ作って」
 パンと手を打って言う彼女に
「はーい」
 と小さく返事をすると、目の前に出されたクッキー(焼きあがったばかりらしい)を数枚ずつ袋に詰めているナツヤが


「味方というより、下僕じゃないか?」
「なーつやー? もっと熱々のお菓子が欲しいのかしら?」
「いや、結構です」


 笑顔で聞くミカに必死で答えるナツヤに苦笑して、トオルはお菓子作りに取り掛かることになった。



 ……ミカの料理が食べれるって聞いてきたんだけどな、と呟きながら。



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