再び  

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「おまえさー、一体なに考えてんだよ」
おれの親友(または悪友)である飯田孝雄(いいだたかお)が言ってきた。
通称、たか。
「これで何人目なんだ?」
「知るか」
憮然とした顔で言ってやって、机の上にふせる。
たかが言っているのは、おれが振られたことについてだ。
今まで付き合った人数なんて、覚えているはずもないし興味もない。
だいたい、おれが好きでコクった訳じゃなくて、向こうからくっついてきたんだ。
「でも、香(かおる)は長かったんだぜ?なんと2ヶ月」
と、おれが言うと、たかは飽きれた顔をした。
「そんなこと自慢してどうするんだよ。それ言ったら、おれは5ヶ月だぜ」
そういって、すぐ近くにいた彼女(名前は喜美(きみ)だったか)の方をちらりと見た。
まあ、高2にもなっておれみたいにうだうだしてる奴の方が珍しいのかもしれない。
でも、どうしても、咲と比べちまうんだよな。
ただたんに話していただけの咲と……。
変な話だよなー。飽きっぽいといわれているこのおれが、約4年間も片思いなんてさ。
元気になったかなー、咲のやつ。それとも、まだ入院してんのか?
「で?」
いきなり聞いてきたたかに、少し驚く。
「なんだよ」
「今度は誰なんだ?」
「…………はぁ!?」
思わず、大声を上げる。
ニヤニヤと笑ながら、おれのことを楽しそうに見ているたかのことを見ると、なんだかイヤーな予感がするんだよな……。
「おまえさ、顔が違うんだよな。香とかと話してる時と全然違うの。しかも、時々しかその顔しないんだよな。すっごいうれしそうな顔。だから、片思いでもいるのかと思ってさ」
こ、こやつ……なかなか鋭いな……。
といっても、このおれがたかなんかに話してしまうという墓穴を掘るわけがない。
「気のせいだろ」
そういって、そっぽを向く。
「そうかぁ?それとか……今度来る転校生とか」
「転校生?」
聞き返す。こいつ、どっからそんな情報をし入れて来るんだ?
「なんだ、知らなかったのか。っとなー、楠原咲って言うらしいぜ」
「……はい!?」
素っ頓狂な声を上げてしまってから、慌てて口を閉じる。
たかのにやにや笑いが、更にひどくなった。
「拓也君、なんですかねー、その反応は?」
わざとらしく言って、詰め寄ってくるたか。
「な、なんでもねぇっての!!」
といっても、たかが信じるはずがない。
「ほほー、そうですかねー。おれの見たところ、この咲ってコとおまえは知り合いみたい
だけどな」
うっ、またまた鋭い……。
くっそー、なんでこういう時にだけ……。
嘘のつけない性質のおれは、目を泳がせた。
それが更にたかの確信が深まってしまったみたいだ。
「おい、知ってんだろ?」
言葉で逃げ切れる自信はない。
と、いう事は本当に逃げた方がいいかもな。
すこし、イスを下げる。
「どーなんだよ?」
おし、そろそろ……
「おーい、席につけ!」
と、のりおの声が。
よ、ナイスタイミング!のりお!
おっと、のりおっていうのは、おれ達の担任の山田のりおだ。
たかは、悔しそうにおれのことを一瞥してから、自分の席についた。
ふ、誰ものりおには逆らえないさ!って、おれの自慢する事じゃないか。
「今日は、転校生を紹介する」
そう言って、のりおはその転校生に入るようにといった。
彼女が、入ってくる。
サラサラの茶色の髪に、明るい黒の瞳……ずっと会っていないのに、他の誰よりも知って
いるように見えた彼女。楠原咲、その人だった。
咲が簡単な自己紹介を済ませて、席につく。
それからのりおはおれ達一人づつに自己紹介をさせていった。
といっても、趣味やらなんやらを言うのはぐだぐだとして時間がかかる。
だから、自分の名前だけ……なんだけどな。
「如月拓也。よろしく」
目だけで合図をして、自己紹介をする。
咲は少し驚いた顔をしたが、すぐに分かったらしい。4年前と同じように笑ってくれた。
座り直して、他の人の自己紹介を聞き流す。
あとで、どうして転校したのかきいとかないとな。
チャイムの音が鳴り響いて、みんなはバラバラと立ち上がり、遊びに行った。
咲はといえば、女子に囲まれながらも話に花を咲かせているようだ。
女子たちの質問が尽きるまでは、話せそうにもない。
小さく、ため息をつく。
と、目の前にたかが立っていることに気がついた。
「あんだよ」
気にくわねーな。なにニヤニヤしてるんだよ。って、大体想像はつくけどな。
「どうだったんだよ」
「なにが?」
「当たりか外れか、だよ。どうだ?」
……当たり外れって……
「どーいう意味だよ」
少しむっと来る。
「そのまんまの意味。おれの推理、あってたのか?」
「あれって、推理?」
思わず、聞き返す。
いつものたかなら怒ってくる所だが、今日はそうにはならなかった。
「ま、いいや。とにかく、行こうぜ」
「どこに?」
「決まってんだろ!」
そう言って、たかはおれを咲の前に連れ出した。
咲の周りで喋ってた女子が静まり返り、おれの事でまた騒ぎ出す。
大体はおれの文句らしいけどな。
「え、あーっと……久しぶり」
おれのことをこんなめに遭わせたたかを恨みつつ、あいさつをする。
咲は、特に驚いた顔もせずに「久しぶり」と元気よく返してきた。
少しだけど、ホッとする。
「咲、どうしたんだ?転校って」
たかがキャーキャー騒いでる女子を落ち付けているのを尻目に、そう切り出した。
「えっとね、こっちの方が病院が近いからってことで。喘息が出てから長い距離移動する
のも大変じゃない」
小首を傾げて言ってくる咲。
やっぱ、4年前と大してかわんねーや。
「でも、拓也ってこの学校だったんだね」
「ああ、おれんち知らなかったもんな。そういえば、おばはんは元気か?」
「元気元気。拓也がいなくなって、苦労が減ったって」
けらけらと笑いながら、咲が言った。
「ったく、アノおばはんは……」
憮然とした顔でいうおれを見て、咲は更にけらけらと笑っていた。
自分が笑われていると分かってても、怒る気にならないのはどうしてだろうな。
苦笑して、ふっと気づく。
「そういえば、おばはんから受け取ったか?」
スミレの花。
口に出すのが恥ずかしかったから主語を抜かしていったのだが、咲には分かったらしい。
ああ、といった顔をして、小さく頷いた。
「篠崎さんは言ってくれなかったけど、すぐに拓也だって分かったよ」
にっこりと笑って、咲。
やっぱり分かったんだな。
「お母さんは分からなかったみたいだけど」
いたずらっぽい口調で言ってくる咲に、苦笑する。
「いいって、別に。咲に分かれば問題はなかったし」
そう言って、おれは声を潜めた。
出来れば、ここでは言いたくなかったけど。
「あのさ……」
咲は驚いた顔をしたが、すぐに頷いてくれた。

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