桜  

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おれ達が付き合い始めて6ヶ月。
(ちなみに、おれからコクったのは始めてである)
たかの奴なんて、「拓也……おまえ、病気か?」と聞いてきたくらい仲がいい……と思う。
どっちかっていうと、おれが咲をからかってるパターンが多いようなきもしなくもないが……ここはよしとしておこう。
そして、今日は2人で国立公園(にしようと言ったのは咲だ。以外にシブイ?)に行こうということになっていた。
今の季節なら、少し早いが桜も咲いている。
3分咲きか5分咲きといったところか。
まあ、これくらいならまだ混んでないから咲にとっては都合がいいのかもしれない。
喘息ってのが出る可能性も低くなるし。
咲の家の前まで来て、チャイムを押す。
時間通りだよな。
「はい」
咲のおかーさんの声がして、扉が開く。
お黷フ姿を見て、少し驚いているようだ。
「あの、あなたは……?」
あれ?咲の奴、話してないのかな。
「如月といいます。咲……ちゃんは?」
うう、ちゃん付けってのはやだなー。
そう聞くと同時に、咲が家から出て来た。
「ゴメン、おそくなった?」
「いや、おれが早かったから」
そういう会話をして出ていこうとして、呼びとめられる。
「如月君って言ったわよね。あなた、また咲のこと――」
……、まだ誤解は解けてなかったのか。
「大丈夫よ、お母さん。体調が悪くなったらすぐ帰るし、この頃は調子いいもん」
そういいながらも、咲はおれのことをひじで突っついた。
おれも説得しろと言っているのだ。
「あ、一応、喘息に関しての知識は身につけておきましたし……」
やっぱ、この人は苦手だよ……。
おれのその言葉にか咲の言葉にかよく分からないが、彼女は大きく頷いた。
「わかったわ。なにかあったら、すぐに連絡しなさい」
そう言って、おれ達を送り出してくれる。
よかったー、とりあえず。
おれ達は、いつものバカ話をしながら公園へと電車で乗り継いで行った。
その公園の近くは、おれが昔住んでた家の近くだ。
自転車で行けなくもないが、咲の体力を考えるとやはり電車で行くのが妥当だろう。
「すっごいねー」
そう言って、桜の樹を見上げる咲。
ピンク色の花びらが、ちらちらと彼女の上に降り注いでいる。
「そーだな」
軽く返事をして、おれはカメラを取り出した。
「撮ってやろっか」
カメラを振りながら言っているおれの言葉に、咲は小さく頷いた。
そして、桜の樹によりかかる。
カシャッ
軽い音を残して、シャッターがおりる。
桜の樹を見上げていたり、小さな池を見ていたり……
一枚だけだけど、通りかかった人に頼んでツーショットも撮った。
「また一緒に来ようね。一緒に来て、また桜、見ようね」
元気よく言った咲の声に、おれは頷いた。
プリクラも撮ったけど、全然人が並んでないところだったからあんまり人気はないらしい。
たわいもないことを話して、桜を見て、花畑を見て、池を見て、人の並びで言い合いをして……本当にいつもと変わることのないことだったとと思う。
でも、同じ時間がいつまでも続くはずがない。
始まりがあるなら終りもある。
どっかのお偉いさんが言っていたように、この日も終わりを告げた。
おれ達にとって、最悪の形で。
「ちょっと休ませて」
たわいもない、そう、健康な人にならなんでもない言葉だったが、元は病人であるおれには、その状態がどれくらいなのかがすぐに分かった。
「ちょっとゴメン」
そう言って、咲の胸の音を聞く。
雑音が混じっていた。
咲の言う喘息というのは、気管支炎喘息が主なものだった。
今のものがそうなのかはおれには分からないが、このままでいていい状態でもない。
昼頃にはたくさんいた人達もほとんどいなくなっていた。
「咲、行くぞ」
そう言って、咲の事を背負う。
思ったよりも軽い体が、おれの背中に乗る。
ぐったりとしてしまった咲の荒い息使いだけが耳元に聞こえてくるようだった。
おれは、走り出した。
「どこ、いくの?」
吐息に似た声が、おれの元へ届く。
「おれの知り合いの病院。おばはんのところへ行く前に、応急処置みたいのだけしてもらう」
走って走って、おれはいくつかの角を曲がった。
もっと近道もたくさんあるのだが、策を超えたりしなくてはいけないぶん、そっちの方が
時間がかかってしまう。
『山崎病院』とかかれた看板が目に飛び込んでくる。
おっしゃ、もう少し。
山崎という人が主治医をやっているからそんな名前になったんだそうで……安直だよなー、考えが。
病院の前に回りこんで、しっかりと閉まっている扉に向かって、おれは声を張り上げた。
「おい!おっちゃん!起きてんだろ!?病人だぜ、病人!!」
走った後で、声を張り上げるというのはかなりコクなものがある。
のどはからからに乾いているし、息だって切れたままだ。
おれは、呼吸を整えて再び声をあげようとした。
けど、その必要もなくなる。
おっちゃんが、扉を開けて出て来たからだ。
「おお、拓也君……だよね。久しぶりだね。一体どうし――」
「――いいから!さっさと咲の診察しやがれ!!」

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