竪琴弾きと春-16-  

 動くことも無く、真っ白な雪に赤い色を染み込ませていく”彼”を、黙って見詰める。
 手が白くなるまで、強く髪飾りを握り締めながら、じっと”彼”のことを見ていた。


 ああ、結局”彼”の名前も分からなかったな、と思い、少女は苦笑した。
 折角、好きになった人だったのに。
 憎みながら、復讐の時を思いながら、一緒に暮らしても良いと思えた人だったのに。
 最悪だな、と一人呟く。


 けれど、その道を断ってしまったのは”彼”自身だ。
”彼”が、その道はないのだと言ったから。
 わたしに、罪は無いなんて、そんなことは言えない。
 それでも、他に選ぶ道なんてなかった。


 わたしに、泣く権利はあるのだろうか。
 家族の為に、死んだ”彼”の為に涙を流す権利は。


 わたしは、


 少女は小さくため息を吐いて、身を翻した。
 真っ白な雪の中を、一人歩いていく。
 アイリスの花が彫られた髪飾りを握り締め、俯きながら、少女は歩いた。
 歩き続けた。


 そして、春になり――。

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