HOME
・
竪琴メニュー
・
小説目次
竪琴弾きと春-16-
←
動くことも無く、真っ白な雪に赤い色を染み込ませていく”彼”を、黙って見詰める。
手が白くなるまで、強く髪飾りを握り締めながら、じっと”彼”のことを見ていた。
ああ、結局”彼”の名前も分からなかったな、と思い、少女は苦笑した。
折角、好きになった人だったのに。
憎みながら、復讐の時を思いながら、一緒に暮らしても良いと思えた人だったのに。
最悪だな、と一人呟く。
けれど、その道を断ってしまったのは”彼”自身だ。
”彼”が、その道はないのだと言ったから。
わたしに、罪は無いなんて、そんなことは言えない。
それでも、他に選ぶ道なんてなかった。
わたしに、泣く権利はあるのだろうか。
家族の為に、死んだ”彼”の為に涙を流す権利は。
わたしは、
少女は小さくため息を吐いて、身を翻した。
真っ白な雪の中を、一人歩いていく。
アイリスの花が彫られた髪飾りを握り締め、俯きながら、少女は歩いた。
歩き続けた。
そして、春になり――。
←
・
→
←
HOME
・
竪琴メニュー
・
小説目次
当サイト内の文章・画像の無断転載・使用を禁止します
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送