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 テーブルに頬杖をついて、ぼんやりとフットボールをしている子供達を見ていると、おい、と声を掛けられてホークスは少しだけ視線を上げた。
「久々だな、セシ」
「その呼び方はやめろと言っているはずだ」
「そうだったか?」
 笑いながらとぼけると、セシ、ことセシリアはこちらのことを一睨みしてから、通り過ぎ、後の席に腰を下ろした。
 いつもの堅苦しい格好とは違い、あえて安い布地を使った服を着てきた辺り、気が利いていると言ってやるべきか。
「知り合いでもいるのか?」
 ぼんやりとフットボールの試合を見ていることに気が付いたからか、そう聞いてくるセシリアに「あぁ」と軽く答える。


 兄であるナギと違って、弟のリクは運動が苦手らしい。
 くすんだ金髪と明るい茶色の大きな目をしたナギは小柄な割に運動能力は抜群で、『鷹目』に送られてくる危険な仕事も、その反射神経を生かしてよく働いてくれている。
 一方で学園に通う弟のリクは、この国では非常に珍しい黒い髪に黒い瞳を持っており、子供っぽい兄に比べると大人びてみえる。また明るく子供じみた言動をとるナギに比べると性格も正反対で、落ち着いた言動が多い。
 けどまあ、こうやって遊んでいるところを見ると、やっぱり歳相応なんだなぁ……と、親でも無いのにそんなことを考え、ホークスは小さく笑った。
「リークくーん、がんばってーっ」
 声援を送る女の子に、リクが手を挙げて答える。同じ学園の生徒だろうか、見たことのある制服だ。


「それで、何の用だ。わざわざ来てやったんだ、さっさと話せ」
 後ろから聞こえる不機嫌なセシリアの声に、苦笑する。
 昔から、セッカチなところは変わらないらしい。
「……相変わらず口が悪いな、もう少しゆとりを持ったらどうだ?」
「うるさい。お前こそ、さっきから年寄り臭いぞ。あの子達の若さがうらやましいのか?」
「うらやましいねぇ。お前だって、」
「帰っていいか?」
「分かった分かった、そう怒るなよ。ちゃんと本題に入るから」
ウェイターからコーヒーを受け取り、畳んでいた新聞を広げて持つ。
 少し体を後に傾け、それでな、と口を開く。
「こっちで起こっている連続殺人。話ぐらいは聞いてると思うが」
「ああ、聞いている」
「犯人は、北に逃げた。そちらの住人という可能性が高い」
「……どこの誰、とは?」
「そこまでは追えなかった。だから、こちらで罠でも仕掛けてみようと思ってな。そこで、協力して欲しいんだが」
「私の権力が及ぶ範囲ならば、こちらで捕まえよう。そちらで捕まえた場合は、私が身元を引き受ける。それでいいか?」
 言われ、目を瞬かせる。
 返答が遅れた為か、自身の紅茶を受け取りながら、不機嫌な声で「何だ?」と問い返してくるセシリアに、苦笑する。
「そこまで協力されるとは思わなかったからな。どこの誰かさえ分かれば、こちらで何とかしようと思っていたんだが」
 そう苦笑しながら言えば、「ふざけるな」と怒ったような声を上げられた。といっても、小声だったが。
「ホークス。お前、自分の立場が分かっているのか? 『鷹目』の一員で有る以上……しかもそのリーダーであるお前は、反逆者として捕らえられてもおかしくないんだぞ。北側で大々的に動けば、反逆の意ありとして捕らえられる」
 そういわれて、思わず呆れた。
「……セシこそ、分かってるのか?」
 聞き返すと、何のことだ、と惚けるように聞き返されて、ため息を吐く。
「俺が反逆者なら、俺と会ってるお前はどうなるんだ」
「仕事、ということにしておけばいい。……王に逆らう存在だとはいえ、お前達がいなければ南側の統治は出来ない。それが分かっている以上、お前達が王に刃を向けない限り、黙認される」
 それは、分かっていた。


 この国は、三つの権力が支配している。
 一つは、最大権力である王族。そして、その王族の元で信仰という形で力を持つ聖教徒の一派。最後に、異端者と下層身分の者、ならず者達が作った同業者団体ギルドを、更に裏で統括する存在である『鷹目』。
 表向きその存在が認められていない『鷹目』だが、南側で起こるいざこざや事件、その他総てのことは『鷹目』が解決していると言って良い。南側は、王や聖教の力が及ばないことが多く、解決に踏み出せないのだ。だから、『鷹目』の存在を黙認している。
 その一方で、彼らがこの存在を恐れていることも知っていた。
 勢力としては弱いが、人は多く、信頼も厚いのが『鷹目』だ。彼らが王に刃を向けたら、と考えると気が気ではないのだろう。だからこそ、『鷹目』を反逆の疑い在り、とした。
 もし本当に逆らうなら、全力でつぶす。
 そういう脅しだった。
 それは、知っている。『鷹目』のリーダーをやっていれば、知ってしかるべきであり、セシリアが言っているのは将にそのことなのだが……。


 ホークスは、ちらりと後を見て、セシリアが真面目に言っているらしいことに、一つため息を吐いた。
   「そうじゃなくてだな、セシ。俺と繋がりがあると思われたら、問題なんじゃないのか。皇女付きになれたんだろう?」
「……繋がりがあるのは、事実だろうが。皇女様につくことになったのは、他に適した女騎士がいなかったからだ。後継者が出てこない以上、やめろという話には、そうそうならないだろう。皇女様も理解のあるお方だ、分かってくださる。それに」
「それに?」
 聞き返すと、ふん、と怒ったような声を一つ。
「お前に心配されずとも、それぐらい、自分でなんとかするさ」
「……あ、そう」
呟いてため息を吐き、それじゃあ、と言葉を続ける。
「さっき言った通りだ。そっちのことは、任せる」
「ああ」
返答を聞いてから、支払いの金を置いて立ち上がる。
一緒に立ち上がった見たことの無い男を視界の端にとどめて、ため息をついた。
「……付けられてんじゃねぇかよ」
「頑張って撒いてくれ。どうせ、あの距離じゃ聞こえてないだろ」
「……へいへい」
 相変わらず、横暴だな、と呟きながら横を通り過ぎると、思いっきり足を蹴られた。
 地味に痛かった。

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