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「あれー、リク君?」
「……ユフィ」
「外で会うなんて珍しいよね、何してるの?」
「あぁ……散歩、かな」
「そっか。今日、天気いいもんね」
「……ん、まあ、そうだね」 「?」
驚いて振り返り、そのまま話し出すリクの後から覗いてみると、ナギの見たことの無い女の子がいた。
 それなりに可愛い子だと思う。栗色の髪が肩ぐらいの長さでゆれていて、ぱっちりとした目は深い緑色。服は、ちょっと高級そうだけど、南側の広場に居るってことは商人の子だと考えた方がいいか。
 高そうな宝石はつけていない。まあ、こっちに居るなら、持っていない方がいいってのは、常識だ。昔の俺みたいなガキに掏られても、憲兵とかには取り返せないから。『鷹目』とか、盗人ギルドとかとつながりがあれば、なんとか取り返せるけれど。
 ……そういう話じゃなかった。
 悔しいことに、身長はナギと同じぐらいか、ちょっと低いかぐらい。いや、多分彼女の方がちょっと低い。きっと低い。そんな気がする。
 そうやって黙って観察していると、ナギのことに気が付いた彼女が、えっと、と呟いて首をかしげて、その子、と言葉を発した。
「まさか……リク君の、彼女?」
「違うっ!」
 俺が否定するよりも早く、リクが全力で否定した。
「なんで、そうなるのさっ」
「だって、リク君、女の子避けてるじゃんっ」
「そ、……そんなこと、無いと思う、けど」
「避けてるよー。本命が居るからって噂もあるから、彼女かなって」
「だから違うってばっ!」
「あー。リク、落ち着けよ」
 思わず袖を引っ張って言えば、リクはようやく気が付いたのか、一つ咳払いをして、ともかく、と言葉を続けた。
「この人は彼女じゃないし……女でもないよ」
「えぇ!?」
 驚いた少女を尻目に、思わず「……必死だなぁ」と呟くと、リクに睨まれた。肩をすくめて答えてから、そうなんだ、といいながら彼女の方をみる。
「ちょっと色々事情があって、秘密にしといてくんねぇかな。あ、一応、俺はリクの兄貴なんだけど」
「お兄さんっ!?」
 二重に驚かれた。
 というか、さっきから、そんなに驚かれるものなのかと、逆に驚いてしまう。
 女装を手がけた、ネリーの腕が良いのだろうか。なにやら凄い楽しそうに、ドレスとか化粧とかカツラとか色々やられたけど。
「ユフィ、静かに……」
「ご、ごめんなさい」
 慌てたリクになだめられて、少女は軽く頭を下げた。
 そして、俺のことを見て、すごいなぁ、と感動したように声を上げる。
「私なんかより、ずっと可愛い……」
「……んなことないと思うけど」
 呟く少女に戸惑いながら答えて、それよりさ、と声を発する。
「ユフィ、だっけ? リクの彼女?」
「ち、ちが……っ」
「そうなりたいと思ってるんですけど、リク君って結構強情で……」
「あー。リクって変なとこ固いからなぁ」
「兄貴っ」
「そうなんですよねー。でも、諦めずにアタックしますっ」
「おう、頑張れっ」
「っだから! 二人して何言ってるのさっ!」
 思わず怒鳴ると、二人が顔を見合わせて、楽しそうに笑った。
 ……何なんだ、この状況。
「ま、いーじゃんいーじゃん。あ、ユフィって、この後用事とかある?」
「あ、忘れてた。私、お使いの途中だったんですよ」
「そっかー。残念だな、折角だから、リクと一緒にどっか……っぃて」
 思い切り頭をはたかれて、頭を抱える。
 ちらりと見上げると不機嫌な顔をしたリクと目があったので、軽く笑って見せると、小さくため息を吐かれた。
「ごめんユフィ、この馬鹿兄は無視して」
「え、うん……えと?」
「やることあるんだよね、邪魔しちゃったかな」
「そんなことないよっ! ええっと、うん、じゃあ私、やることあるから」
「うん、また明日、学園で」
「うん、じゃあねっ」
 手を振って、走っていくユフィ見送って、気を使わせてしまったな、と申し訳なく思う。
 呆れたような視線を向けてくる兄に肩をすくめてみせて歩くように促すと、仕方が無いように頷かれた。
 しばらく歩いてから、「それでー?」と楽しげに聞いてくるのに、やっぱりきたか、とため息を吐く。
「ユフィとは……」
「なんでもないよ」
 即答すると、ナギは面白そうな顔をして「へぇ」と一言。
「で、本当の所は……」
「なんでもないって言ってるだろ。ってか、完全に素になってるけど」
「あ」
「どこに居るかわかんないんでしょ、演技できないなら黙ってれば?」
 犯人が、という主語を言われなくても、分かった。
 よっぽど、ユフィについて追求されるのがイヤだったんだろう。まあ、帰ってから追求しても良いんだけど、多分はぐらかされる気がする。
「むぅ……」
「適当に回って帰るよ、全く」
 ホークスも、何考えてるんだか。
 呟かれたリクの言葉に振り向いたが、声を上げなかったせいか、気付いてもらえなかった。

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