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「あー、それでだねリク君。君のお姉さんの事なんだが」
「……はぁ」
 突然外に呼び出したと思ったら、一体何を言っているんだこいつは、というのがリクの正直な感想だった。
 そっぽを向いて頬をかいて、またこっちを見て俯いて、とせわしない。中々話し出す気配がないのに呆れて、小さくため息を吐くと、驚いたようにビクリと反応された。
 マークとユフィには、しっかりと口留めをしておいたおかげで、どうやらリクには姉が居ることになってしまったらしい。といっても、それを知っているのは昨日あの場にいた、シリルとその取り巻きぐらいで、特に問題は無い、と思うのだが。
「姉貴がどうしたのさ?」
 にしても、姉貴と呼ぶのは落ち着かない。
「あー、うん。いやね、ちょっと、お会いしたいと思っていてだな」
「……? なんでまた?」
 不思議に思って聞くと、「ば、ばかな事を聞くなっ」と怒られた。
「……なんだよ?」
「と、とにかく、僕はナギさんに会ってお話したいんだ。しなければならないんだっ! だから……っ」
 意味が分からない。
「……無理だと思うけど」
「邪魔をするというのか?」
「いや、そういうわけでもなく……」
 反論しかけて、面倒になってやめる。ため息を吐き軽く頭を振って、わかった、と答えた。
「とりあえず、聞いてみるよ」
 そういえば、シリルは分かりやす過ぎるぐらいに、ぱっと顔を輝かせた。そして、感極まったように、ありがとう、と両手を握ってくる。
「え、っと……話すだけだからね?」
「ああ、わかってるっ! 助かるっ!」
 にこにこと嬉しそうな顔で両手をぶんぶん振るシリルを見て、適当にごまかせないなぁ、と再びため息を吐いた。


 やたらと楽しそうなシリルの手をやっとのことで振り解いて、暇な時間にマークと二人でたむろする屋根の上にきたのが、さっきのこと。
 マークにこの話をしたら、腹を抱えて笑われた。なんかもう、いっそ清清しいぐらいの、笑い方だった。
「……笑うなよなぁ」
「だって、それ、ナギさんに、惚れてんだろっ? 笑わずに、どうすりゃいいんだよ?」
 息も絶え絶え、というように笑いながら言うマークに、そうだけど、とため息をつきながら答える。
「どうしよう」
「会わせてやればー?」
「そうもいかないんだって、言ったでしょ」
 マークには、自分がどこに世話になっているのかも含め全て話してあったから、兄貴が囮としてあの女装をやっていたことも話した。それを聞いた時、マークは少し驚いた様子ではあったが、結局は笑っていた。
「けどさー、ここに来ることは、許してくれたんだろ?」
「あれは、賭けみたいなもんだって……」
「だとしても、困るなら来させないはずじゃねぇか。そうだろ?」
「……そうだね」
 思わず小さな声で呟いて、考え込む。


 そうだ。昨日の散歩といい、学園前まで来た事といい、わざと姿をさらさせているようにしか見えない。第一身分の人と、かかわりを持っているというのが被害者の共通事項なら、その為の囮、つまり第一身分側の人間として、誰かが必要になるわけだ。
 そして、その誰かはたぶん、俺。
 第一身分、とはいかなくても、学園に通う生徒とかかわりをもち、その事実を周囲の人に知らせる。そこまで行かなくても、第四身分の女が誰かを待っているとか、そんな噂が立てばいいのだろう。
 それを考えると……
「意外とさー、シリルが会いたがってるって知ったら、乗り気になるんじゃねーの?」
「……だとしても、ダメでしょうが」
 それはつまり、俺ではなくシリルを兄貴と一緒に囮にしろと言っているようなものだ。
 シリルのことは、友人とは思ってないけど、同級生だ。そんなことに巻き込んだら、ちょっとだけど、罪悪感を覚える。
「んじゃ、一回会わせて、ナギさんに断ってもらうんだな」
 当然のように言われて、首を傾げる。
「なんで、わざわざ兄貴に会わせるのさ。別に、俺が会えないって言えば……」
「こういうとこ、ホント馬鹿よねぇ、リクちゃんは」
 はぁっとわざとらしくため息を吐きながら言われて、何だよ、と聞き返す。
「あのな、シリルはお前を毛嫌いしてんだぜ。リクが断ったら、お前が二人の間を邪魔してるように見えるわけよ」
 分かるか? と聞かれて、ああ、と小さく呟く。
 当然だが、悪意を持って人を見れば、その人も自分に悪意を持っているように見えるものだ。マークが言いたいのは、つまりそういうことだろう。
「……分かった」
「じゃ、ナギさんに直接、断ってもらうんだな。その方が穏便に終わる」
 屋根の上に寝っ転がりながら言われて、そうだな、と頷く。
 確かに、言われてみればそうだ。兄貴は嫌がるだろうけど、俺が言ったところで、シリルが納得するとは思えないし。
「うん、そうする」
 と言えば、眠いのか目を瞑ったままのマークが、そうしろそうしろ、と軽く手をあげて答えた。

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