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 シリルがやりたがっている懇親会なるものの事を話すと、予想通り、兄貴は渋い顔をした。
「俺は、無理だぞ。リクだけ行ってこいよ」
「そう言うだろうとは思った」
 肩を竦めながら答える。
「大体、兄貴が行ったらまた勘違いされそうだし」
「カンチガイって何だよ? 俺は、リクの友達を巻き込みたくないだけだぜ」
 からかったつもりが、首を傾げられた。
 それに苦笑して、再び「わかってる」と答える。
「シリルには、適当に断っておく」
「ん、そうして……」
「なしてー? 可哀想やん、行ったらええのに」
 デュークだった。
 俺らの部屋にノックもなくずかずかと入り込んで、にやにやと笑う。
「うあ、何だよデューク、勝手に入るなよっ!」
「えーやんかぁ、わしと自分の仲やろー?」
「どんな仲だよ……ってか酒くさっ」
「大人の香りや」
「はぁ?」
「せやから、大人の……」
「はいはい、ストップストップ」
 いつまでも続きそうな漫才に、手を叩いて間に入り込む。
「それで、何の用?」
「自分、冷たいな」
「うん。で、何の用事?」
 繰り返し聞くと、デュークが苦笑したようだった。
「そこで、自分らの話が聞こえたんよ。ナギも働いてばっかやし、たまにゃ子供らしく遊んでくればええと思って」
 にこにこと笑って言うデュークに、思わず眉をしかめる。
「……シリルんとこなら、いかねぇよ?」
「なしてよ。ナギやって、リクの友達、知りたいやろ」
「そりゃ、そうだけど……巻き込んじゃうし」
「そないなこと心配せんでも、大丈夫やて。あないな囮、引っ掛かったりせんよ」
「でも……」
「何、自分、そないに女装自信あるん?」
「んなわけあるかっ」
 思わず怒鳴ると、デュークは楽しそうに笑った。
「ならええやん。向こうが女やと思ってるんなら、女装で行くしかあらへんけど。リクの友達見れるし、仲ようなれる。一石二鳥や」
「そ、そうかぁ?」
「せや。わしの言うこと、信じられへんの?」
「んなこと……」
「なら、決まりやっ」
「うぅー」
 迷いだした兄貴を見て、慌てデュークの首根っこを掴む。
「ちょっとデューク、どういうつもりさっ?」
「何や?」
「何じゃないだろ、誘導しないでよっ」
「誘導て……失礼やね、自分も」
 呆れた声と共に、手を払われる。
「親心や。ナギかて、自分と同じ子供やで。せやのに、働いてばっかで同年代の友達もおらへん。心配なんよ」
「だとしても、今じゃなくたって良いでしょ。わざわざ囮の格好で、他の人を巻き込むような……」
「自分、ひどいなぁ」
 言われて、思わず「はぁ?」と声をあげる。
「兄ちゃんは二の次なんか? こないに自分の為に頑張ってくれとんのに」
「何だよ、それ?」
 聞くと、やれやれと首を振られた。
「自覚あらへんの? 可哀想やね、ナギも」
「なに?」
「わからへんの、リク。自分は……」
「んー、リク、やっぱ俺も行くわ」
 デュークの言葉を遮るようにして、兄貴が言ってきた。
「え?」
「いーだろ、別に。シリルは巻き込まなくてすむように、ほんとの事言う。んで、カンチガイもしないようにしてもらう。それでいーだろ?」
 言われて、小さく頷くと、兄貴は嬉しそうに笑った。
 そして、ほら、と言いながら立ち上がり、デュークの背を押す。
「もういーだろ、出てけよ」
「ええ、冷たいこと言わんでよ」
「いいから、出てけっつーのっ」
 嫌がるデュークを押し出し、ちょっと待ってて、と言い残し、兄貴も出ていってしまった。結局、デュークが言いたいのは何だったんだ、と少しだけ首を傾げた。


 ばたんと後ろの扉が閉じたのを確認して、で、と声をあげる。
「何のつもりだよ、デューク」
「え、何が? わしは、二人と話したかっただけで」
「わざわざあんなこと、言わなくたって良いだろ」
 低い声で言うと、デュークは驚いたような顔になって
「あんなことって……ああ、リクの」
 納得して、頷いた。
「せやけど、あれはわし、本気で思っとるんやけど」
「そんなこと、知らねーよ。リクはあれでいいんだよ。だから、変なこと言うな」
 睨み付けるようにして言われて、肩を竦める。
「ほんで、口出されとぅないから、承諾したんか」
「……リクは嫌がるだろうけどな。だから、シリルとか他の友達に、迷惑かかんないようにしろよ。絶対だかんなっ」
 力を込めて言う様子に、苦笑して頷く。
 ナギにとって、嫌がるも了承するも、リクが基準だ。
 次に仲間がきて、知らない人も入り、最後に自分。
 哀れかもしれないが、と肩を竦めたのはホークスだった。
「その方が、都合が良いからな」
 悪ぶるのはアイツの悪い癖だが、都合がいいのは事実なのだろう。
 最初は、リクが嫌がるからとシリルを囮にするのを拒否し、今はリクが傷付くからと了承した。それによって自分がリクに嫌われる可能性を、全く考慮していない。
「ほな、ホークスに話して来るわ」
「……ん」
 軽く手を振り階段を降りながら、ため息を吐く。
「これで嫌われたらどないしてくれるんや、ホークスのどアホ」
 ナギとリクは息子みたいなもんなのに、いいおもちゃなのに。相手してくれなくなったら、反抗期の息子を抱えてる中年親父みたいじゃないか。
そう思ったら余計に切なくなって、ため息をついた。

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