「逃がした? お前、何やってるんだ」
「……だから、改めて頼んでるだろ。犯人は上層、しかも神父だぜ。俺の管轄じゃない」
珍しく、向かいに座っているセシリアに眉をしかめて言えば、彼女は不機嫌そうに「ふん」と小さく呟いた。
今日は、騎士の時はいつもくくっている髪を解き、どこのお嬢様なのかと聞きたくなるような(いや実際お嬢様なはずなのだが)服装で、優雅に座っていた。
第二層にあるカフェの一つで、今日は後を付けているのはいないようだ、とホークスの前に座ったのが一時間ほど前。
ちなみに、ホークスの方も、第二層にいてもおかしくないよう、それなりにいい服を着てきている。もちろん、帽子もわすれていない。
「いっつも、うちは優秀だって自慢してるくせに」
「俺、そんな自慢してるか……?」
思わず不安になって聞くと、セシリアは楽しげな笑みを浮かべて、さあな、と答えてきた。
ああもう、相変わらず可愛くない、と心中で呟き、ともかく、と声を上げた。
「ありゃ異分子だ、そっちでも動けるだろ」
ホークスが言うと、セシリアは呆れた表情をしてから、一つため息を落とした。
「証言だけじゃ、表立って動けないからな。すぐには捕まえられないぞ」
「いい。必要な分は、協力する」
「ああ、期待してる」
軽く頷きながら答えて、まあ、と言葉を続けた。
「まずは証拠だな」
「ああ」
紅茶を飲みながら言うセシリアに頷き答えて、
「そうだ。セシ」
「……その名で呼ぶな。何だ」
不機嫌そうな顔で聞く、お嬢様な格好のセシリアに、にやりと笑ってみせる。
「この後、暇ならデー……ってぇ」
テーブルの下で、思いっきり足を踏まれた。
***
「なんだ、バラしたのかよ」
「当たり前だろ、シリルに申し訳ない」
言うと、マークは呆れた顔で肩をすくめた。
昨夜。衝撃を受けたシリルをなんとか帰して、兄貴と帰った。
ホークスはすまなかったな、と簡単にではあるが謝ってくれたし、兄貴も申し訳なさそうに頭を下げてきたので、シリルも怪我は無かったからと、彼を巻き込んだことに対し怒らずに終わってしまった。
今朝になって、シリルに昨日のことを謝ったら、どこか驚いた顔で首をふられた。
「いや、いいんだ。……それより」
「ん?」
「リク君、今までのことを謝ろう。嫌なことをして、すまなかった」
「ああ、いや……俺は、慣れてるし……」
言うと、シリルは目をぱちくりとさせて、そうか、と軽く頷いた。納得すんなよ。
「では、かわりに」
言って、右手を出す。
何、と聞けば、シリルはどこかムッとした表情になって、
「握手だ。今日から、友人になろう」
「……え?」
思わず聞き返すと、シリルは真っ赤になって、「い、いやならいいっ!」と怒鳴るもんだから、思わず、声をあげて笑ってしまった。
「な、なんだっ」
「悪い、なんでもないよ」
笑いながら答えて、軽く手を握る。
「これから、よろしく」
そう言うと、シリルは嬉しそうに大きく頷いた。